☆ 2003年を振り返って ☆

井出薫

 西暦2003年という年を未来の歴史学者はどのように評価するだろう。

 3月、アメリカと英国は、国連の反対を押し切りイラク戦争を開始した。まかりなりにも国連は第二次大戦後の世界秩序の担い手だった。だが、アメリカの単独主義は国連の限界を白日の下に晒すことになった。2003年という年は、国連崩壊始まりの日として歴史にその記憶を留めることになるのだろうか。

 11月の衆議院選挙で保守二大政党化の流れがはっきりし、伝統的な左翼政党は壊滅的な打撃をうけた。旧社会党の流れを汲む社民党、共産党、これら左翼政党は政権を握ることこそなかったが、戦後の日本政治に大きな貢献をしてきた。だが、もはや昔日の面影はない。

 国内外とも、戦後秩序から新しい秩序への移行期に差し掛かっている。おそらく、この二つの出来事はその象徴だろう。

 私たちが、良き未来へ向かおうとしているのか、それとも、悪しき未来へ向かおうとしているのか、今の時点では誰も判定できない。「ミネルヴァ(ギリシャ・ローマ神話に登場する知恵の女神)の梟は日が暮れてから飛び立つ」ヘーゲルはこう語っている。歴史の渦中にいる者は自分を正しく評価することはできない。

 一年が終わろうするとき、今年を象徴するかのごとくフセイン元イラク大統領が拘束された。世界の多くは彼を糾弾しているが、フセイン氏の功罪は歴史が決めることだろう。

 ただ、一つだけ言えることがある。なぜフセイン氏のような独裁者が登場してくるのか、なぜ人権や平和が世界に根付かないのか、なぜ餓えに苦しむ人たちがいるのか、こういうことを真剣に考えなければ、よい未来が見つかることはないということだ。

 未来を決めるのはCPUの処理能力などではなく、良くも悪くも私たちの思想だ。そのことを肝に銘じて新年を迎えたい。

(H15/12/25記)


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