☆ 鬱病と付き合う ☆

井出薫

 鬱病の経験があると言うと、鬱病になったらどうしたらよいか、鬱病患者にはどうしてあげればよいかと尋ねられることがある。

 鬱病と言うより不安障害が主で、しかも重症ではないと診断された筆者にアドバイスできることはほとんどない。「一人で悩んでいないで、鬱を引き起こす重大な身体疾患がないかよく検査してもらい、なければ精神科医や臨床心理士など信頼の置ける専門家のところに行くことですね。」と言えるくらいだ。

 個人的な体験を言うと、ある本に「鬱病は心の病ではなく身体の病と考えた方がよい。」と記されているのを目にして気が楽になった記憶がある。

 人は、内臓を自由自在に動かすことはできないが、心は自分で思ったとおりに動かすことができると考えがちだ。だから、心の病に罹ったと考えると、どうしても自分を責めることになる。一方、身体の病と考えれば、自分を責めなくても済む。周囲も、心の病だと考えない方が余計な詮索をしないで済む。

 心の病に罹った経験がない人は、心の病は心の葛藤のようなものから生じると想像するだろうが、それは一寸違う。むしろ身体の変化が原因で、結果として心の葛藤が生じる。筆者も身体を壊したのが始まりだった。

 ただ、周囲は、本人は見た目よりずっと苦しいことを理解してあげることが大切だ。筆者も、療養中、道で出会った旧友に「相変わらず元気そうだね。」と言われて酷く落ち込んだことがあった。入院が必要なくらい悪化すれば、痩せ細り、いかにも病人という感じになるが、筆者程度なら見た目は普段と変わらない。でも、見た目は普通でも心の中では暗い雲が立ち込め冷たい雨が止むことなく降り注いでいる。

 とにかく、じっくり休養することが一番だ。周囲も患者がゆっくり休養できる環境を作ってあげることが大切だ。適切な治療を受け、休養していれば必ず治るのだから。

(H15/12/4記)


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