☆ 「てんかん」に理解を ☆

井出薫

 てんかん患者の自動車事故で7名の尊い命が奪われた。昨年4月にも、てんかん患者が運転するクレーン車が6名の児童の命を奪った。危険性は予見できたはずで、加害者の責任は重い。昨年4月の事件の加害者は有罪になっている。

 しかし、その一方で、てんかんという病気が日本社会で十分に理解されておらず、てんかんを持病とする者が就職や結婚で不利益を被っている現実を忘れる訳にはいかない。

 二つの事件とも、加害者はてんかんであることを黙って働いていた。申告していれば、雇用者は車の運転はさせず、事故も起きなかっただろう。しかし、就職の際にてんかんであることを告げたら採用されなかった可能性が高い。そのことがてんかんを隠すという動機に繋がっている。本人だけではなく家族も口を拭うことになる。

 てんかんのほとんどは適切な治療を受ければ、完治しなくとも日常生活にはほとんど支障はない。だからてんかんの持病があったとしても、自動車の運転や人命に係る事故を引き起こす危険性がある機械の操作を除けば、どのような仕事でもできる。発作が長期に亘って起きていない場合は、自動車の運転だってできる。それゆえ、一部の職種を除けば、てんかんは採用を拒む理由にはならない。ところが、現実はそうなっていない。てんかんの持病があるだけで、もっぱらオフィスワークであるにも拘わらず採用を拒否されることがある。こういう現実が改まらない限り、てんかんは隠蔽され同じような悲劇が繰り返される。

 うつ病もかつては同じような扱いを受けていた。患者は勤め先に事実を隠し、病気休暇を取得しなくてはならないときには、医師は診断書に「自律神経失調症」とか「心身症」という病名を記載した。今でもうつ病に偏見を持つ職場がない訳ではない。だが事態は大幅に改善され、多くの企業ではうつ病で病気休暇を取っても本人が不利益を被ることはなくなった。これは、うつ病に対する人々の理解が進んだからだ。

 うつ病とてんかんは症状がまったく異なる。うつ病にはてんかんのような大事故の危険性は少ない。しかし、その一方で、業務遂行の能率ではてんかんのほうがはるかに影響は小さい。大発作を伴わない軽症患者も含まれているとは言え、てんかん患者は治療を受けている者だけでも100万人以上いると言われており、決して珍しい病気ではない。しかし、身近でてんかん患者と分かる者に出会うことはほとんどない。それは日常生活では健常者と差がないからだ。これらのことを理解すれば、てんかんを理由に雇用を拒否することに合理性がないことは明らかになる。

 うつ病と同じように、てんかんを人々が理解し受け容れる日が早く来ることを期待したい。それが悲劇を繰り返さない最良の方法だ。


(H24/4/15記)


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