☆ ちょっと怪しい数字 ☆

井出薫

 4年以内にマグニチュード7クラスの首都圏直下型地震が発生する確率は70%だと東大の地震研が公表し、大きく報じられている。これは驚愕すべき数字だ。震度6弱以上の地震に見舞われたらどうみても倒壊する我が家を眺めて背筋が凍る思いになる。

 しかし、どうしても、この数字は眉唾ではないかという思いが払しょくできない。天下?の東大地震研の発表、信憑性が高いはずなのだが、どこか納得がいかない。まず「何故「4年以内」なのか?」が分からない。「10年以内に何%」、「1年以内に何%」でもよいはずなのに何故「4年」という数字が選ばれるのか。4年以内に起きなければ安心だとでも言うのだろうか。そんなことはない。4枚のプレートが鬩ぎ合い、断層が多数存在する日本列島、どこで、いつ巨大地震が起きてもおかしくはない。4年過ぎれば安心だなどということはありえない。

 4年で70%だとすると、1年以内に起きる確率はどの程度になるか。今年、来年、再来年、4年後、(さらには10年後)に起きる確率が等しく、また一度起きたら当分の間(たとえば20年以上)はマグニチュード7規模の地震は発生しないと仮定しよう。すると、1年以内に起きる確率は26%くらいと見積もられる。さらに10年以内に起きる確率は何と95%に達する。つまり10年以内にはほぼ確実に起きることになる。

 だが東日本大震災で明らかになったように、現時点では地震のメカニズムは未解明で、大地震の予兆を捉えることもできない。それゆえ10年以内に確実に起きるということは世界最高の地震学者の集団でも結論付けることはできないはずだ。

 すでに、ここに数字のトリックがあるように感じる。「10年以内に95%」と発表すれば、「10年以内に起きると断言した」と言われるに決まっている。もし10年以内に発生しなければ、これまでも地震の予想で外し続けてきた東大地震研の名誉が地に落ちる。かと言って、1年以内に26%ではいささかインパクトに欠け、人々は「起きる確率は4分の1か」と安心して、財政難の折、地震研究の予算が削減されるかもしれない。外して恥をかくこともなく、地震研究の予算も削られない(それどころか増額が期待できる)数字が「4年以内の70%」だったのではないだろうか。

 素人の分際で利いた風な口をきくな、下衆の勘繰りだとお叱りを受けるだろう。確かに、私の計算は極めて単純で、地震研究の最先端に基づくものでも何でもない。等確率を仮定した単純な確率計算に過ぎない。予知には至っていないものの、地震研究は着実に進展しており、四半世紀前よりは遥かに地震に対する知識は増大した。その過程で東大地震研が大きな役割を果たしたことも認める。それでも、予知にはほど遠いのが現状で、「100年以内に」とかいう長期間ならばいざ知らず、「4年以内に」などという短期間で、信頼がおける予測ができるとは思えない。

 日本では、地震への備えは欠かせない。だから専門家が一定の根拠の下に、人々に常日頃から警告を発することは大きな意義がある。しかしピンポイントで「首都圏で」などと言うのはどうかと思う。首都圏以外は安心だと感違いする者がたくさん出てくるのではないだろうか。東京は怖いと言って東京から遠く離れた場所に引っ越したらそこで大震災に出くわしたという笑えない事態も十分に想定されうる。精々のところ「日本全国でも、首都圏、並びに、どこどこでは、これこれの理由で危険性が高いと推測される。」という程度に留めておくべきだと考える。尤も、この点に関しては地震研や研究者ではなく、センセーショナルな話題を好む報道の姿勢に問題があると言うべきかもしれない。いずれにしろ、常日頃から震災への備えを怠らず、かつ、過剰な反応をせず冷静に振舞うように努めたい。


(H24/1/25記)


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