☆ 不毛な世代間論争 ☆

井出薫

 暫定措置で引き上げた年金支給水準を下げ忘れていたので引き下げるという。株式の売却益と配当の課税率引き下げ(2割から1割)も暫定措置だったはずだが、こちらはまだ思い出していないらしい。

 年金や社会保険の議論でいつも疑問に思うのが、「現役世代の負担が大きい」という役人や議員、メディアの論理だ。年金は自分が納めた保険料を引き出すのだから現役世代の負担とは言い難い。高度成長、バブルの時代に利回りを高く設定し、原資が不足している面はある。不足分は現役世代が支払わなくてはならない。しかし、現役世代もいずれは年金生活するときが来る。現役世代が子ども時代、その生活を支えたのは現在の年金受給者たちだ。金利の不足分を現役世代が払うからと言って、専ら現役世代だけに重税が課せられているかのごとき議論は間違っている。

 デフレだと騒いでいる割には、食料品など生活必需品は値上がりしている。この状況で年金支給水準を引き下げることは少なからぬ影響がある。それは年金生活者だけではなく、現役世代にも及ぶ。公的年金は当てにはならない、自衛するしかない。多くの者はそう考える。収入は貯蓄に回り、内需は縮小し、輸出頼みの状態が益々強まる。その一方で韓国、中国、その他新興国の企業の急速な競争力強化と欧米企業の巻き返しで、日本企業はグローバル市場から撤退を余儀なくされている。消費税増税や年金支給額の減額にも拘わらず、財政収支が悪化するという悪循環に陥る危険性は高い。

 財政赤字が深刻であることは分かる。だから増税や支出の削減が必要だという議論も理解できる。だが、増税や支出削減を実施する時期と方法を慎重に見定めないといけない。理論的には妥当な政策も実施時期と方法を間違えれば最悪の結果になる。それを回避するには事実の的確な認識が不可欠だ。それゆえ、不毛な世代間論争を煽るだけの、まやかしの「現役世代の負担」論は厳に慎んでもらいたい。


(H23/12/4記)


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