☆ 変わらない?変われない?共産党 ☆

井出薫

 23日付けの朝日新聞朝刊に、志位日本共産党委員長と宇野東大教授との対談が掲載されていた。正直がっかりだ。日本共産党(以下、「共産党」と記す)は変わらない。変われないと言うべきか。

 「資本主義は利潤を追求し、その一方で労働者からの搾取を強める。労働者は貧困化し、必然的に過剰生産で恐慌に陥る。」、「生産手段の社会化で全ての者が自由に発達できる社会を保障する。」100年前から繰り返されてきた教条主義的マルクス主義者の紋切り型の主張と少しも変わらない。そこには日本と世界の現状に対する鋭い分析も眼差しもない。マルクスの思想に対する批判的研究の痕跡もない。「マルクスは正しい。マルクスの言ったとおりに世界経済は危機に瀕している。」志位委員長が言っていることはそれだけだ。

 これまで何度も論じたように、この総括は間違っている。マルクスの(教条主義的な)後継者たちは、資本論で定義された労働価値説に固執し、「過剰生産による恐慌」理論をあらゆる局面で無理やり当て嵌めて的外れな分析や予言を行ってきた。そして、未だに共産党はそれを踏襲している。資本が利潤を求める存在であること、それが資本主義社会の原動力になっていることは間違いない。だからこそ「資本主義」なのだ。しかし、資本が常に労働搾取を求めるというのは正しくない。資本は労働者の生活や労働条件を改善することが資本生産(利潤獲得)にメリットがあると思えばそれを実行することを躊躇しない。大企業が高賃金や充実した福利厚生制度を売りにして、優秀な人材を集めていることがそれを示している。共産党は、利潤は労働搾取からしか生まれないという「労働価値説に基づく絶対的剰余価値生産理論」に固執するため、資本主義下で労働者の生活や労働条件の改善を認めることができない。それを認めると論理矛盾になるからだ。しかし、利潤は労働者の搾取よりも生産性向上により生み出される(マルクスが実はそのことを資本論で語っている)。だから、企業は生産性向上に必死になる。確かに、その過程で労賃の据え置き、引き下げ、非正規社員への切り替えなど人件費抑制という動機付けが働くことは否定できない。それゆえ共産党の搾取理論が全く間違っているとは言えない。しかし、それは資本主義の一部に過ぎず、全部ではなく本質でもない。さらに労働者は黙って賃金引き下げや解雇を受け入れたりしない。労働者は団結して抵抗し、ほとんどの場合企業も譲歩するしかない。政権政党も民主的な選挙が行われている以上、多数派である労働者全体から批判を浴びるような政策を実施することはできない。ギリシャの危機は、共産党が主張するような過剰生産や労働搾取ではなく、寧ろ、政権政党が労働者の支持を得るために、過剰な資金を投じたことによるという面の方が遥かに強い。また、共産党が理想として掲げる「生産手段の社会化」は、国有企業の非効率という現実に鑑みても、複雑化した現代社会では、実現は不可能に近い。中国の目覚ましい経済発展と共産党に支配されない市民生活の拡大は、紛れもなく市場の開放=私的な生産手段の独占を容認することで実現した。共産党は「生産手段の全面的な社会化=共産主義実現は(いつとは予測できない)未来の話しだ」と言って議論をはぐらかすが、これでは合理的な議論になっていない。

 「自民党は大企業本位の政党」、共産党はそう言って、長期に亘り政権政党だった自民党を批判してきた。しかし自民党は企業から金をもらうが、選挙地盤は主として地方であり、小規模な農家、経済的に楽とは言えない中小企業などを最大の支持母体としてきた。事実、自民党はしばしば経済界の意向に反した政策を実行し、今でも経済団体が強く求めるTPP参加に半数近い議員が反対している。「資本主義国家の政権政党=大企業の味方」という単純図式から脱却できない共産党は、この誰の目にも明らかな現実さえ見て取ることができない。

 共産党の組織そのものにも問題が残る。科学的な一枚岩の党、これが共産党の謳い文句だった。しかし、そのために、末端の党員の考えが中央の決定に反映されず、地方の活動が形骸化した。また、党本部の決定は絶対とされ、基本的に分派活動は認められない。おそらく本稿で論じた内容に部分的にせよ共感する共産党員が少なからずいるはずだが、それが外には現れないし、党幹部から党内に異論があることが語られることもない。こういう閉鎖的な党に、安心して政権を任せる訳にはいかない。現代の資本主義は多くの難点を抱えているが、かつての独裁的なソ連・東欧の共産主義や、人権を蹂躙した文化大革命当時の中国や今の北朝鮮よりは、ずっとマシだ。ほとんどの日本人はそう考えている。だから共産党への支持は限定的で広がらない。

 批判してきたが、共産党に期待するところは大きい。自民党や民主党が企業や選挙地盤とのしがらみから抜け出せず、また、思想的に資本主義を絶対視する者が多数を占める現状を考えたとき、行き詰まっている現代日本社会を改善するには、共産党政権実現しかないとすら考えている。また、個々の党員や地方組織の中には、貧困者や被差別者、難病患者など現代日本で最も不遇な者のために真摯に活動している者がたくさんいることも聞いている。しかし、今の共産党の考え方と組織構造では、恐ろしくて、とても政権を任せる訳にはいかない。外部に向って批判の声を上げるだけではなく、自らの思想と組織を総点検して、徹底的な改革を断行し、政権を担い日本に暮らす全ての人に幸福をもたらすことができる政党へと脱皮することを強く求めたい。


(H23/11/23記)


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