井出薫
11月18日、CERNの研究チームが、再実験の結果、ニュートリノが(真空中の)光速よりも速いことが再確認されたと発表した。 9月の最初の発表以来、ほとんどの物理学者はこの結果を無視してきた。世界を代表する科学雑誌であるネイチャーも、この話題に触れていない。「ありえない」というのが大多数の物理学者の考えだ。以前も述べたとおり、これが事実ならば、コペルニクスの天動説に匹敵する大革命になる。いや、コペルニクスの時代と比較して科学技術の役割が飛躍的に拡大している現代社会においては、コペルニクスを遥かに上回る衝撃を与える。 学生時代、(自分の専門分野以上に)物理学に関心を持ち熱心に勉強し、卒業後も素粒子論や宇宙論の発展に興味を持ち続けてきた者の一人としても「ありえない」と考えるし、(ありえない話しなど)無視して研究に専念したい物理学者の気持ちも分かる。しかし2度までも光速よりもニュートリノが速いと発表されたのであれば、物理学者には原因を解明して物理学への信頼を取り戻す責務がある。 静止質量を持つ物質(ニュートリノもその一つ)は、速度の限界とされる真空中の光速に近づくにつれ、エネルギーが急激に増大し、真空中の光速に到達すると無限大になる。だからこそ真空中の光速を超えることはありえないのだが、極めて光速に近い速度に達したときには莫大なエネルギーを持つことになる。その原理を利用しているのが、CERNのLHCに代表される巨大素粒子加速器で、その巨大エネルギーは、宇宙誕生のごく初期(ピコ秒未満の領域)の超高エネルギー状態を再現する。LHCが稼働を開始したとき、一部で、その巨大エネルギーによりブラックホールが誕生して地球がそのブラックホールに吸い込まれてしまうのではないかという不安の声が広がった。 LHCは稼働を開始したが、勿論ブラックホールなど生まれていない。しかし、もしも本当に有限の静止質量を持つ物質が真空中の光速を超えることができるのであれば、その過程でエネルギーが無限大になり、ブラックホールが誕生し地球が呑み込まれてしまうことも全くありえない話しではないということになる。だとすれば巨大素粒子加速器など宇宙論的レベルの巨大エネルギーを生み出す実験施設を作ることは中止するべきだということになる。さもなければ現代物理学を根本的に見直す必要がある。 おそらく、実験結果を精査すれば、特にGPSの精度の問題を調査すれば、光速を超えるというのは見せ掛けに過ぎないと判明すると思う。しかし、いずれにしろ、一研究チームとは言えCERNという物理学界で世界一の権威を有する機関が、二度に亘りニュートリノが光速を超えたと発表している以上、理論的にも、実用的にも、この結果を「ありえない」で済ませている訳にはいかない。世界の物理学者による早急なる真実解明が望まれる。 了
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