☆ 若年層の夢、壮年層の奮起、高齢層の慎み ☆

井出薫

 巨人清武球団代表が渡辺会長を批判する記者会見を開催して話題になっている。巨人ファンでない者にとっては大して興味もないが、それでも考えさせられる。

 渡辺恒雄氏、85歳、未だにプロ野球や報道のみならず、政界にまで隠然たる力を持っていると言われる。現役時代は稀代の有能な記者だったのかもしれないが、いつまで実力者で留まるつもりなのか、聊か呆れそして暗い気持ちになる。

 渡辺氏本人の問題もある。だがそれ以上に、周囲が彼を持ちあげていつまでも実力者として君臨するのを容認しているのが情けない。如何に有能な人物でも85にもなれば衰えが来る。急死した西岡元参院議長の例が示す通り、老齢になれば思わぬことが起きる。危機管理からも85歳の人物に実権を与えていることは問題が多い。

 筆者は56歳だが、野田首相誕生で、生まれて初めて自分よりも若い者が首相の座に就いたことになる。歳を取っただけと言えなくもないが、日本社会の中枢を握る者の年齢層が際立って高いことを示す証しと見るのが妥当だろう。海外では40代の者が国家の頂点に立つことが珍しくない。それに比べ、日本では政界も財界も50台後半以降の男性が牛耳り、女性と若手の姿が乏しい。20代の選挙投票率が低いことがしばしば話題となるが、政界や経済界の主役たちの顔ぶれを見れば、若者が選挙に行く気が失せるのは当然だ。

 少子高齢化が急速に進む中、高齢者が現役で活躍することは好ましいが、いつまでも実力者として部下に指図する立場に居座ることは望ましくない。経験を生かして控え目だが皆から頼りにされる相談役になるか、若者たちと一緒になって汗を流すか、未知の分野に挑戦するかして、後進に道を譲る必要がある。

 何よりも、渡辺氏の例が示す通り、壮年層の奮起が強く求められる。何が怖くても渡辺会長の首に鈴を付けられないのかさっぱり理解ができない。「後進に道を譲り、皆の善き相談役となって頂きたい」と何故直言できないのか。清武代表の記者会見にしろ、破れかぶれの嫌がらせのような感じで今一つ共感できない。おそらくこういう事態は読売新聞だけに限ったことではあるまい。政権の座から転落したにも拘わらず、未だに高齢の議員が強い影響力を行使している自民党がその典型だ。

 これから先30年、40年と社会を支えていく10代、20代、30代が夢を抱くことができないような社会では日本の未来はない。夢を抱くには、自分たちの前に大きな希望が広がっていると感じられる土壌を育む必要がある。そのためには、壮年層がしっかりと若年層が活躍できる舞台を準備し支え、高齢層が慎みを持って悩める若年層と壮年層の善き相談役に徹する必要がある。しかし今の日本はそれには程遠い。制度や組織を変えることも大切だが、自分が何をすれば社会に貢献できるか知ることがより一層大切だ。


(H23/11/12記)


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