☆ 煙草と酒の増税を ☆

井出薫

 増税路線を突き進んでいる癖に、煙草税増税はおやじ狩りのようだとへ理屈を捏ねて、野田政権は煙草税増税に否定的な見解を示している。財務省も日本たばこの意の受けているのか、増税は消費量を減らし却って税収の落ち込みを招くと後ろ向きだ。しかし、多くの市民に大きな負担を強いる消費税増税を実施しようというのに、煙草税増税を回避するとしたら納得ができない。

 過激な嫌煙運動家のように、愛煙家を目の敵にするつもりはない。いきなり700円まで値上げするというのも無茶な話しで賛成しない。段階的に5から600円程度に値上げするのが妥当なところだ。しかし、いずれにしろ煙草税増税は実施が望まれる。

 肺がんが全て煙草の所為だというのは間違っている。愛煙家が嘆く通り、煙草が実際以上に悪者にされているのも事実だ。しかし、煙草が癌、心疾患、脳疾患という3大疾病のリスクを高くしている可能性は極めて高い。増税が煙草の消費量を減らし税収の落ち込みを招くと言うが、それが本当だとしたら、煙草の増税が人々の健康を促進し、医療保険料の削減に繋がるというプラスの効果が期待できる。

 何も愛煙家を排除しようと言うのではない。30年、40年以上、喫煙を続けてきた者が禁煙をするのは極めて辛いことだろう。そういう者にはエチケットを守り高い税を収めることで喫煙を認めることが望ましい。愛煙家を悪者扱いしても何の解決にもならない。寧ろ若年層への喫煙の害を減らすことが大切だ。若年層が喫煙習慣を身につけることを阻止し、長期的に煙草の消費量を少なくする。これが健康促進に繋がる。煙草税はそれに役立つ可能性がある。専ら税収面だけで議論するのは片手落ちで、間違った結論を引き出すことになる。

 一方、煙草にやたら厳しい割には、酒には甘い。適量の酒は長寿の秘訣だとか、酒は社交に欠かせない道具だなどと言って飲酒を正当化する者が多いが、酒の害も煙草に劣らず大きい。元々、日本人は、アルコールの分解過程で生成されるアセトアルデヒドを無害化する分解酵素の量が少なく(欠く者もいる)、アルコールに弱い。少ない量で悪酔いをし、身体を傷つける。酔ってホームから転落したり、交通事故に遭遇したりすることも珍しくない。また酒が原因のトラブルも日常茶飯事で、児童虐待やドメスティックバイオレンスの背景に酒が潜んでいることは珍しいことではない。いや、寧ろ主要な原因と言っても過言ではない。アルコール中毒患者の数も多く、しかも癌、心疾患、脳疾患の重要な因子でもある。ところが、煙草の害が強調されているのに、アルコールのそれは話題にならない。何故なのか。愛煙家よりも酒好きの方が圧倒的に多いからだろうか。理由はとにかく、身体に悪く、他人迷惑である点では、酒も煙草も変わるところはない。寧ろ対人関係でのトラブルは酒の方が遥かに多い。

 だから、煙草税増税に併せて、酒税の増税も実施することが望まれる。それでこそ公平が保たれる。そうすれば愛煙家も文句は言うまい。尤も愛煙家で酒好きの者には甚だ辛いことになるが、この際、控えるようにすれば健康を促進し長い目で見て本人のためになる。野田政権は自分が愛煙家だからとか、酒好きだからなどという理由で、たばこと酒の増税に逡巡するべきではない。どおしても嫌ならば消費税増税も撤回するべきだ。年金が頼りの高齢者や低所得者層の生活を直撃する消費税増税を実施しておいて、煙草と酒に手を付けないのでは公平な負担という原則に反する。

 勿論、煙草税や酒税の増税だけで良い訳ではない。現実問題として、特に中高年層が問題になるが、煙草や酒を取り上げられたら、毎日の生活が暗くなり鬱や不安障害になりかねないという者が少なくない。だから、煙草と酒の増税の一方で、酒やたばこに依存しなくてもよいように、誰でも気楽に参加できるスポーツ、芸術、学問など楽しく創造的な活動の場と環境を整えることが不可欠になる。そして、そういう環境を整備することが、社会を健全にし、なおかつ経済状況を良くすることに繋がる。


(H23/9/11記)


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