☆ ひかりの道は険しい ☆

井出薫

 原口元総務大臣の時代、総務省は「ひかりの道」を旗印に、ひかりファイバの全国展開を図ったが、最近は鳴りを潜めている。

 以前も述べたが、ひかりには難点がある。銅線だと電話局側で給電するので、たとえ停電になっても電話が使える(注)。しかし、ひかりに変えると局側給電が不可能になり、停電時は電話が使えなくなる。携帯電話があるから大丈夫とのんきに構えている者もいるが、少し考えが甘い。今夏は計画停電が予定されており、携帯の基地局が停止する危険性がある。携帯電話の基地局は、バッテリーを装備し最低でも3時間は停止しないように設計されている。しかし計画停電が3時間を超えるとバッテリー切れになる恐れがあり、停電が3時間以内でも、バッテリーが劣化していると3時間持たない。確率は低いとは言え、計画停電時に警察や消防など緊急通報が必要となる事態が生じる可能性はゼロではない。銅線の劣化は確実に進んでおり、20年先を考えると、すべてがひかりに置換されることは避け難い。しかし、現時点では、ひかりへの切り替えは慎重に行いたい。オール電化にして停電で困ったという話しを良く耳にするが、さらに通信ができないとなると最悪の事態になる。少なくとも昔ながらの銅線の電話回線1回線を残すか、複数の事業者の携帯電話(事業者によって基地局の場所が違うので、計画停電が一地域3時間ならば、同時に使えなくなる可能性は極めて低い)を使用するなど、自衛策を講じて導入する方が賢明だ。
(注)正確に言うと多機能電話機など停電になると使えない機種もある。それでも多機能電話機をモジュラージャックから引き抜いて、局側給電で動作する昔ながらの電話機に差しかえれば電話ができる。

 原発事故で太陽エネルギーが脚光を浴びている。長期的にみれば、原発や火力ではなく、太陽エネルギー(太陽光、または、太陽熱)で電力需要を賄えるようになれば最善だ。しかし、こちらのひかりの道も険しい。エネルギー変換効率の改善や効率的な電気の蓄積など技術的な難題、コスト負担の問題など様々な課題が行く手に立ち塞がっている。さらに原発などの大規模発電所で税収を得て雇用も確保している地方では、市民の意見も分かれる。いずれも並大抵のことでは解決できない問題ばかりだ。

 いずれの「ひかりの道」も、長く険しい登り坂が待っている。ゴールは遥か遠い。しかし必ずしも悲観する必要はない。容易ではないがいずれも解決不可能な問題ではないからだ。リチウム電池など近年の技術開発の成果で、小型で寿命の長い蓄電池が安価に製造できるようになってきており、銅線からひかりに変えても停電の影響を回避できる可能性は広がっている。太陽エネルギーを通信の予備電源に使う手もある。逆に通信を使って電力の効率的な利用も可能となる。ある意味で、二つの「ひかりの道」は共進化しているとも言える。それを考えれば、未来は暗い訳ではなく、光が輝いている。

 そうは言っても、現時点では、ひかりの道が険しいのも事実だ。当分の間は、消費者としては、ひかりへの切り替えは慎重に考えた上で行い、こまめに節電することが賢い選択になる。


(H23/5/11記)


[ Back ]



Copyright(c) 2003 IDEA-MOO All Rights Reserved.