☆ 半減期 ☆

井出薫

 原発事故に関連して、報道番組や新聞で、ヨウ素131の半減期は8日だと解説されているのをしばしば目にする。しかし、この「半減期」という言葉は一寸曲者だ。

 最初の量が半分になる時間が半減期だ。この定義からも推測できるように、半減期の倍の時間が経過すると放射性物質が消滅する訳ではない。ヨウ素131の最初の量を1とすると、8日で2分の1、16日で4分の1、24日で8分の1、32日で16分の1という具合に指数関数的に減少していく。決して0になることはない。半減期8日ということは、おおよそ、1ヶ月で一桁少なくなる計算だ。だから例えば基準値の100万倍の放射性物質が検出されたとすると、単純計算で基準値に戻るには6カ月程度かかる。尤も、放出された放射性物質は拡散していくから、その場に留まり減衰していくよりも遥かに素早く減少し、新たな流出がない限り、その量は比較的短時間で基準値まで低下する。

 注意すべきことは決して放射性物質はゼロになることはないということだ。拡散して単位面積当たりの量は減少しても、それは放射性物質が広がったことを意味しており、安全になった訳ではない。しかも大気中、土壌、海洋、湖沼、場所によって拡散率は著しく異なる。ところが、どうも一連の報道を見ていると、まるで8日で無害になるかような印象を与えている。きちんとした説明が必要だ。

 更に、ウランがプルトニウムに変わることがあるように、放射性物質の場合は放射線を放出して何に変わるかを見ておく必要がある。ヨウ素131は8日の半減期でキセノン131mに変化する。ところがこのキセノン131mが安定ではなく放射線(γ線)を放出して安定な原子であるキセノン131に変わる。キセノン131mの半減期は12日程度で、ヨウ素131と併せると本当の意味で放射性物質が半減するのは8日間ではなく18日程度ということになる。

 自然界には大量の放射性物質がある。地球が生物の住めない冷たい星にならないのは太陽のおかげだけではなく、地中の放射性物質のおかげでもある。放射性物質が放出する放射線で地中は暖められ冷たい不毛の大地にならないで済んでいる。もしも地球に放射性物質が存在しなければ、地底から生じる熱がなくなり地球のダイナミックな運動は失われ生命体の存在は不可能になる。その意味で、放射性物質は地上の生命に貢献している。だから無闇に怖がる必要はないという意見もある。しかし、これは程度の問題だ。しかも、どの程度までは許容できるのか、未だ分かっていない。一般論として、放射線は高い確率でDNAの損傷を引き起こす。被爆が発癌率を高めると言われているのも、損傷したDNAが異常な働きをし、細胞を癌化することがあるからだ。特に細胞分裂が盛んな児童への影響は計り知れない。だから自然界に元から存在する放射線以外の放射線量を、可能な限りゼロに近づけることが、児童の健康を守るために欠かせない。

 いずれにしろ、「半減期」という言葉には注意が必要だ。「半減期8日」は「8日経てば安心」ということを意味しない。このことを忘れないでほしい。


(H23/4/11記)


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