☆ 年金から考える日本の未来 ☆

井出薫

 2月に56歳になるが、この歳になると年金が気になる。財政赤字もあって若年層でも年金には関心が高く将来に備えて貯蓄をする者が増えている。

 民主党は基礎年金(月額7万円)を税金で賄うことを公約に掲げてきた。しかし税金だけでは困難だという意見が強まり風向きは変わった。2020年には人口の4分の1が65を超える。一人月額7万円(年額84万円)として年間25兆円を超える予算が必要となる。国だけではなく地方自治体に負担させるとしても国家の税収が50兆円を下回る現状では税で全てを賄うことは難しい。

 受給者から見るとどうだろう。子どもが扶養してくれるのでなければ月7万ではとても生活できない。筆者のように子どものいない独身者を例に挙げれば、飲食費と電気、ガス、水道、通信などで7万円は全て使い果たす。厚生年金などの比例報酬分を加えても月20万円を超える者は僅かで10万円台の者が大半を占める。健康で贅沢を言わなければ月18万あれば十分という試算もあるが、20万以下では東京で借家暮らしの者は厳しい。こういう状況では、個人事業主は蓄えがない限り一生働き続けなくてはならないし、厚生年金を受給する会社員も病気で医療費が嵩むようになるとたちまち生活が苦しくなる。

 こうなると、個人事業主は事業の権利と貯金や不動産、会社員は企業が支給する企業年金と貯金が頼みの綱になる。近頃の若者はチャレンジ精神に乏しく大企業志向が強いと批判的に論じられることが多い。しかし現状を考えれば当然の結果と言わなくてはならない。企業年金は大企業と中小企業では規模が違う。中小では企業年金制度そのものがないところが多い。だから官公庁や大企業に入らないと老後にお金で苦労することは目に見えている。海外進出や起業で成功する者はごく一握りで、自分が当たり籤を引く確率は低い。リスクを冒して失敗すれば身の破滅になるか親兄弟など周囲に迷惑を掛ける。状況を冷静に観察すれば「官公庁か大企業に就職」という結論に至る。若者はチャレンジ精神を失ったのではなく賢くなったのだ。

 しかし、このままでは日本社会の活力は確実に失われていく。直接税と間接税双方で大幅増税を断行し税収を倍増させ年金など福祉を充実させるというのが一つの施策だ。そうなれば若者はチャレンジしやすくなる。また将来の不安が減れば貯蓄から消費への転換を促すこともできる。だが一方で大幅増税は資本や資産家の海外流出を招き経済の悪化に繋がる危険性がある。それに福祉の充実と言っても、一人当たり月額30万円以上の年金が支給されない限り仕事がない高齢者の生活は楽にはならない。だが一人当たり月30万も出すことは大増税を断行しても不可能だ。結局、これと言った妙案はない。

 こうして見ていくと、日本の未来は暗いとまでは言わないとしても、天気で言えば曇りか小雨が続き天候回復の見通しが立たないという状況であることが分かる。どうすれば明るい未来を展望できるようになるのか。それには市民社会が行政特に国家への依存を小さくして自律することが欠かせないと思う。昔のような3世代同居で近隣住民と協力して高齢者や児童を支え合うというシステムを再生することはできない。しかし、新しい形の共生システムを作ることはできるのではないだろうか。今のところ筆者は生活に聊か余裕があり周囲を資金やボランティア活動で支援することができる。やがて筆者が支援を必要とするようになったとき支援する余裕がある者が周囲に居るはずだ。だから、政府を介在せずに互いに助け合うシステムを構築することができるはずだ。勿論、それは容易ではないし、システム構築のために行政の支援が必要になることは論をまたない。だが国や地方自治体という組織にいつまでも頼っていたのでは未来は拓けない。そのことは間違いない。


(H23/1/23記)


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