☆ 民営化は万能薬に非ず ☆

井出薫

 国鉄を皮切りに多くの国営企業が民営化されてきた。小泉政権は規制緩和と国営企業の民営化をさらに促進しようとしている。

 国鉄民営化・JR誕生で、たしかにサービスはよくなった。様々な旅の企画で私たちを楽しませてくれる。駅員の接客態度も格段に改善された。電気通信事業の自由化と電電公社の民営化は、競争を促進して電話料金の大幅な値下げとブロードバンドインターネットの普及を実現した。

 だが、問題がないわけではない。踏み切り横断中の老人が渡りきれず線路の中に取り残されるなど、JR中央線の高架工事に伴い多くのトラブルが発生している。早急に安全対策を見直し、住民の交通の便を確保する方策を打っておかないと大惨事が発生しかねない。国土交通省が異例の立ち入り検査を行なったのは当然だ。

 今回の不祥事を民営化の所為にするのは短絡的かもしれない。だが、利益優先の民間企業の弱点が露呈したことは事実だ。

 工事は一定のペースで発生するわけではない。だから、自社で工事要員を雇用するより、外注業者に任せた方が費用削減になる。今回の工事も業者に丸投げだった。工事現場の人間はおそらく危険を察知していたと思う。だが、請負業者はJRに「危険だから対策が必要だ」などと進言しない。言われたことを遣るだけだ。これが国鉄時代のように国鉄職員が工事を実施していたならば、事前に対策を打つことが出来ただろう。

 分割後のNTTも同じだ。工事はすべて外注になり、現場の分かる人間がNTT本体からどんどんいなくなっている。いまのところ大きな事故は発生していないが、この先どうなるか分からない。

 国営企業民営化が一定の成果を挙げたことは否定できないし、現政権の民営化路線を間違いだと決め付けることもできない。だが、民営化は万能の処方箋ではないことを忘れてはならない。

(H15/10/23記)


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