☆ 理科離れと数学神話 ☆

井出薫

 利用できる土地が狭く、資源に乏しい日本は、これからも平和な技術立国として生きていくしかない。それなのに理科離れが進んでいると言われる。由々しき事態だ。
 自然科学へ興味を持つ人は多い。NHKのサイエンスシリーズは評判がよく、DVDや本にもなっている。なのに、なぜ理科離れが進むのだろう。

 技術立国日本を支えてきたのに、理系が文系に較べて地位や給与面で冷遇されているからだ、という意見がある。だが、それが理由ではない。政府要人や企業のトップが文系で占められているからと言って、理系が冷遇されていると判断するのは間違いだ。不景気になれば理系の方が文系より断然有利だ。

 理科離れの理由は、理系に進むためには数学が得意でなくてはならないという根強い神話があることだ。理系に進みたかったが、数学が苦手だったので諦めたと言う人は少なくない。しかも、数学の教科書は年々難しくなる一方だ。これでは、当然のことながら、理科離れが進むことになる。

 本当に数学が得意でないと理系は無理なのだろうか。答えは「否」だ。数学や理論物理学は別として、他の学科ではさほど高度な数学は必要ない。高度な数学が必要なら専門家やコンピュータに助けてもらえばよい。

 理科離れを防ぐには数学神話を払拭する必要がある。そのためには、理系の大学入試で数学を選択科目にするべきだ。
 大多数の人間にとって、数学は単独で勉強するには無味乾燥で退屈だ。しかし、興味を持っている分野で数学が必要になったら、自然と学習して理解できるようになる。だから、大学入学の段階で高度な数学を理解している必要はない。なによりも、好奇心溢れる若者が、自分は数学が苦手だから理系には向かないと思い込まないようにすることが大切だ。

(H15/10/23記)


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