☆ ネット時代の恐ろしさ ☆

井出薫

 国は「光の道」構想など光ブロードバンドの全国普及を目指しているが、皮肉にも、ブロードバンドネットワーク時代の恐ろしさを露呈する事件が短期間に頻発している。奄美豪雨による通信の長時間途絶、テロ情報の漏洩、そして留めが尖閣ビデオの漏洩だ。

 奄美の豪雨は関係ないと言う者もいるかもしれないが、携帯電話はいつでも通じるという前提(神話)が電力などインフラの復旧や被災者救援の遅れに繋がった。携帯電話やブロードバンドがない時代は別の方法で被災者救援、インフラ復旧などが行われていた。携帯電話の普及でこれらの活動が円滑に行われるようになったが、逆に携帯が繋がらないと活動が滞る。今回の奄美地方の災害はその一例だ。管轄である総務省は携帯電話会社などに災害時の早期復旧対策の検討を指示したが現実には限界がある。携帯電話は一切有線を使わず相手まで無線で届くと思っている者がいる。だからなぜ災害で通信できなくなるのか不思議だと言われる。しかし料金が高く余り使われていない衛星電話と違い、携帯電話は最寄りの無線基地局までが無線で、基地局から先のネットワークは有線(光ファイバケーブル)で接続されている。だから土砂崩れや道路の陥没などで電柱が倒壊したり、道路下の管路が破損したりすれば通信はできなくなる。そして復旧作業も容易にはできない。さらに基地局は稼働のために電力が不可欠だ。停電を想定して基地局は通常最低3時間は持つバッテリーを保持しているが、それでも停電が長期化すると基地局は停止し周辺の携帯電話利用者は通信ができなくなる。各家庭への引き込み線が断線すると通信ができなくなる固定電話よりも携帯電話の方が災害に幾らか強いという面はある。だが、万能ではない。行政や自衛隊などは衛星電話を常備すべきだろう。ただ衛星では容量に限界があり通信料金も高く全てのニーズを満たすことはできない。また衛星を的確に捕捉しないと通信ができないのでどこでも使えるという訳にはいかない。愛好者が激減しているがアマチュア無線の活用なども考える必要がある。また何より長期に亘って通信が途絶する事態がありえるという現実をよく認識しておく必要がある。通信技術の進歩はサービスの多様化、高度化を実現するが、必ずしも安全性・信頼性の向上を保証しない。寧ろ脆弱性が高まることもあることを弁えておかないといざというときに痛い目にあう。

 漏洩は正にネット時代を象徴する。ユーチューブという誰でも動画を投稿でき閲覧できるサイトが多数存在するICT時代、これから先も、同様の事犯は絶えることはなかろう。確かに民主党政権の危機管理能力の致命的とも言える弱さが不祥事の原因という面もあるが、多様な情報に自由に接することができる現代、常に(たとえ極秘情報でも)ネットに保存した情報は如何なる安全対策を取っても漏洩しうると考えておく必要がある。本当に極秘ならばネット上のパソコンやサーバには保存しないことが絶対条件で、ネットから切り離された物理的な媒体に対しても厳重なアクセス制限を設ける必要がある。だが、それでも完璧な防御はできない。処罰覚悟の確信犯が媒体を持ち出しコピーしネットで流すことは常に可能だからだ。DVDやブルーレイメディアなどでは複製できない仕組みがあるが、たとえば最初に撮影を行ったときの映像はコピー可能であり、必ずどこかにコピー可能な素材が残る。だから、それをコピーされたら打つ手はない。

 通信は途絶する、大規模な情報漏洩は起きる。これが紛れもない現実だ。未然に防ぐ努力は不可欠だが、限界があることを認識し、途絶したとき、漏洩したときの対策を事前に準備しておくことが何よりも大切になる。


(H22/11/7記)


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