☆ 電子書籍と書店 ☆

井出薫

 ipadやkindleの登場で電子書籍が急速に普及している。印刷コストが削減でき在庫も不要、低価格化や印税の増額が期待でき、向こう10年で書籍の少なからぬ割合を電子書籍が占めるという事態に発展することが十分に予測される。

 その一方で書店は頭が痛い。大型書店では書籍だけではなく文具、電子辞書、玩具などを販売し、児童が本を読むスペースを用意するなど様々な工夫がなされている。日本最大の古書店街の一つ、神保町界隈でも盛んに夏のイベントを開催してPRに努めている。

 大型書店は装いを新たにしながら何とか生き残っていくだろう。だが個人営業の小さな書店が生き残るのは容易ではない。近所でも30年前には通りに面して小さな書店が軒を連ねていたものだが、その頃と比べて人口が増えているにも拘わらず書店は激減した。雑誌はキオスクやコンビニ、単行本や専門雑誌は大型書店というスタイルが定着し、ネットで簡単に書籍が注文できるようになり、街の小さな書店に足を運ぶ者は大幅に減った。そこに追い打ちを掛けるように電子書籍の登場だ。街の小さな書店が姿を消すのも時間の問題なのかもしれない。

 だが案外個人営業の小さな書店がこれから増えるようにも思える。高齢化社会到来で60を過ぎても働く者が増えている。本が好きな者なら、自宅を改造して書店にし、店番をしながらネットを使って仕事をするというセカンドライフは夢の一つになるだろう。電子書籍が普及してもすぐに紙の書籍がなくなることはない。社会的な仕組みが整備されれば、SOHOを兼ねた書店が街の至るところに並び、そこで高齢者たちがネットを使って仕事をし、その傍らでは子どもたちが本を読んでいるという時代が到来するかもしれない。ここには高齢者と子どもたちが楽しく共生する社会がある。電子書籍の普及と並行して、こういう未来が実現することを期待したい。


(H22/8/1記)


[ Back ]



Copyright(c) 2003 IDEA-MOO All Rights Reserved.