☆ 消費税増税に反対 ☆

井出薫

 菅首相は消費税増税を提唱している。だが安易な消費税率引き上げには賛成しがたい。

 公約違反だと言うつもりはない。自民党長期政権で行政に関わる情報は自民党と官僚が独占してきた。情報公開法も報道機関や専門家の分析も不十分で、民主党が財源に裏打ちされていない公約を掲げたからと言って非難するのは公平ではない。寧ろ現状を把握した民主党がこれからどうやって国政の舵取りをするのかを注視するべきだ。

 消費税率引き上げに端から反対するつもりはない。消費税は徴税が確実で徴税コストも少なくて済む。所得税や資産税は所得や資産の把握が容易ではなく、公正な課税を実現するためには膨大な数の税務署員が必要となる。だから財政健全化のために消費税率引き上げに目が向くのも無理からぬところではある。だが格差が拡大し、少子高齢化が急速に進行している今の日本で消費税率を引き上げることが良い選択だとは言い難い。

 消費税率を引き上げればその分自動的に価格が上がる訳ではない。価格弾力性の大小で価格上昇率は異なる。安売り競争が進み物価は一定水準で留まる可能性もある。だが生活必需品は一般に価格弾力性が低く、消費税増税は低所得者や年金生活の高齢者を直撃する。また、もし消費税率引き上げにも拘わらず物価が上がらなければ、(生産コスト削減のために)賃金引き下げ、労働密度の強化、生産拠点の海外移転に伴う労働需要の減少=失業率の上昇など負の作用が生じていることになり、やはり低所得者の生活に打撃を与える。

 消費税を上げる前に格差是正を優先する必要がある。そのためにも高額所得者への所得税率引き上げを実施するべきだ。かつては高額所得者の実効税率が8割近い時代があった。だが今では最高で5割を切っている。いきなり8割は無理だとしても、段階的に6割から7割程度まで所得税率を引き上げることが望ましい。確かに経済のグローバル化が進展し、発展途上国の経済発展が目覚ましい現在、所得税率の引き上げは高額所得者の海外への移住による国内資産の海外への流出、更には日本経済の先行きを見限った外国資本の国内市場からの撤退などを引き起こす危険性がある。特に共産党が主張するような大企業への課税強化、内部留保(利益余剰金を意味するものと思われる)への課税などは余程慎重に行わないと日本経済を崩壊させることになる。そうなってから共産主義革命を起こしたところで益々泥沼に陥るだけだ。

 しかし経済全体の動向に注意しながら所得税増税を段階的に実施すれば、経済の健全性を維持しつつ税収増を実現することは十分に可能だと思われる。日本の消費税率は諸外国に比べて低いと常々言われているが、非課税品目がほとんどない日本の消費税は率ではともかく総課税額では決して諸外国と比べて低いとは言えない。徴税が楽だから、諸外国よりも率が低いからという安直な理由で、財政再建という大義名分に託けて消費税率を上げることは将来に禍根を残す。所得税率引き上げには多くの課題があるとは言え、格差是正をせずに消費税率を引き上げるだけでは、税収の増分が税率引き上げにより打撃を受ける経済的弱者の救済に回るだけで、財政問題の抜本的解決にはならない。まずは、今、何をなすべきかをよく考える必要がある。


(H22/6/28記)


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