☆ 政権交代の効果 ☆

井出薫

 仕事で付き合いがある官僚が「政権交代して仕事が遣りにくくなった」と嘆いている。

 これまでは官僚の裁量で何でもできた。ところが政治主導を標榜する民主党政権が誕生して、これまでの手法が通じなくなった。

 官僚の意に沿う大学教授など所謂「有識者」と業界団体から構成される審議会や委員会を作る。そして審議会の答申を基に法律を制定する。法律の肝心な部分は、官僚の裁量で決められる省令や告示を引用するようになっている。こうして実質的に官僚が行政を支配する仕組みが出来上がる。これが、これまでの日本の行政の実態だった。それを民主党は抜本的に改革しようとしている。

 同じサラリーマンとして権限を縮小された官僚に同情するところはあるが、やはり民主党のやり方が正しい。あらゆる行政事務を政治家が主導する必要はない。任せるべきことは任せないと行政が滞ることになるし、実務に明るくない政治家が過剰に介入することで間違った選択をする危険性も増す。だが日本は民主国家であり、行政の指揮権は国会で選任された総理大臣と総理に指名された各大臣にあり、官僚にはない。ところがこれまで実質的な指揮権限が官僚のトップである事務次官にあった。その結果、行政と業者が癒着し、業者寄りの行政、代償としての天下り受け入れという図式が出来上がり、水俣病、薬害エイズ、薬害肝炎などの悲劇を繰り返してきた。

 民主党政権に失望する声は大きい。事実、民主党は多くの局面で人々の期待を裏切った。しかし、それでも政権交代の効果は確実にある。行政の改革が進み、一般市民と行政の関係にも変化の兆しが見えてきている。民主党政権の失政を指摘することは容易い。しかし成果も評価する必要がある。さもないと、どんな政権が出来ても、ただ失望するだけで、改革が進まないことになる。


(H22/4/4記)


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