☆ 官僚制度改革 ☆

井出薫

 事務次官から局長への異動が可能となるように国家官僚の人事制度を改革すると民主党が宣言した。いよいよ明治以来の国家官僚人事制度の改革が始める。大いに注目したい。

 だが何点か疑問がある。事務次官の権限を局長級に引き下げることが行政の改善になるのかはっきりしない。与党政治家の人事権強化に繋がることは確実だが、選挙対策、身内優先など政治家の思惑で行政が左右される危険性が増す。欧米では政治家が中央銀行の金融政策に過剰介入してインフレを招いた苦い教訓をもとに中央銀行の独立性を高めた。良い行政のためには、官僚にも一定の自律的な権限が必要で、そのためには人事権確保が欠かせない。しかも、選挙のたびに大臣は交代し、選挙の勝利に貢献したとか有名人であるなどという理由で大臣に相応しくない者が就任することも珍しくない。つまり政治家の人事権強化には善し悪しがある。

 上級公務員試験甲種に合格した所謂キャリア組が、これと言った実績もないのに入省後数年でノンキャリア組の上に立つという前近代的昇格制度と、業務状況に関わりなく時計のように正確に2年刻みで遂行される人事ローテーションにこそ現行官僚制度の最大の欠陥がある。キャリア・ノンキャリアの壁が広く行政に必要な情報の伝達と有効活用の妨げになり、モラルの低下、不正の温床にもなっている。壁を取り外すことで出世競争が激化し足の引っ張り合いになる恐れなしとはしないが、最優先に改善するべき課題であることは間違いない。2年という人事ローテーションは、業者や地元有力者との癒着防止のために欠かせないと説明されてきた。しかし、この理屈は怪しい。実際はキャリア組のエレベータ式昇格と密接に関連しており癒着防止、不正防止に効果があるとは言い難い。水俣病、薬害エイズ、薬害肝炎など多数の被害者が出ているにも拘わらず、規制措置と被害者救済に長期を要した痛ましい事件を反省するとき、役所で絶大な権限を有する課長級職員が2年ごとに交代することが問題解決の遅れに繋がっていることがはっきりする。当然だろう、確実に2年で交代すると分かっていれば、最初の半年は勉強、終わりの半年は異動の準備で、まともな仕事ができるのは1年だけになる。これでは国民のための行政ができるはずがない。キャリア制度の改革と併せ、業務状況に適った人事異動制度の確立が強く望まれる。

 事務次官の地位見直しだけではなく、キャリア制度の見直しもすると民主党は宣言しているが具体的な動きが見えてこない。鳩山、小沢の献金問題で沈黙を守る民主党若手議員に象徴されるように、政党という組織は常に独裁的な傾向を有する。それゆえ政治家の人事権強化だけでは行政が良くなる保証はなく、寧ろ悪化が懸念される。事務次官問題で労力を費やすよりも、まずキャリア制度改革に着手してもらいたい。


(H22/1/30記)


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