☆ 2度の意味 ☆

井出薫

 「気温上昇2度以内」地球温暖化問題でこの数値がすっかり有名になった。しかし「2度」に本当に重要な意味があるのだろうか。二つの観点から、「2度」という数値に大した意味はないと言わなくてはならない。

 環境負荷には二つのタイプがある。閾値が存在する場合と存在しない場合だ。もし気温上昇が前者で閾値が2度だとすると、2度という数値には重大な意味がある。1.9度上昇したときの被害が1として、2.1度の被害が10となるような場合、2度が閾値になる。これが事実であれば2度以内を死守することが大変に重要となる。何せ、このラインを超えると被害が1桁増大するからだ。しかし気温上昇の環境負荷に閾値がないとすれば、たとえば1.5度上昇のときの被害を3として、2度で被害が4、2.5度で被害が5というように気温上昇と被害量が比例しているときには、2度という数値の意義は薄れる。2度に達していなくても1.5度上昇しただけでも大きな被害があるとも言えるし、2度を超えて2.5度上昇しても大して被害が増える訳ではないとも言える。気温上昇の環境負荷は不確実で閾値があるか否かは定かではないが、閾値が存在しそれが2度だという根拠はない。

 人間は直接地球を暖めているのではない。産業革命以降、二酸化炭素排出量が急増し、大気中の温室効果ガス濃度を増大させたことで間接的に地球を温暖化している。だから二酸化炭素排出量を制御することは出来ても気温を直接制御することはできない。それゆえ気温上昇の上限の目安を決めただけでは行動計画を立案できない。二酸化炭素排出量と気温上昇の関係が解明されて初めて「2度以内に上昇を留める」という数値目標が具体的行動へ結び付く。ところが現状では両者の関係は明らかになっていない。

 急激な二酸化炭素の増加に伴う地球温暖化は生態系の環境適応能力の限界を超え生態系や気候システムに大打撃を与える可能性があり、二酸化炭素排出量削減が人類史的課題であることに間違いはない。そして、この課題に真摯に取り組むためには何らかの数値目標が必要となることにも異論はない。それが「気温上昇2度以内」という訳だ。とは言え「2度」という数値は便宜的なものに過ぎず、本質的な意味を持っているわけではないことを肝に銘じておく必要がある。


(H22/1/7記)


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