☆ 日本の課題 ☆

井出薫

 古くは中曽根内閣時代から構造改革の必要性が叫ばれていた。国鉄や電電公社の民営化など時の内閣は改革を実行し、米の自由化など規制緩和も実施してきた。これらの施策が適当なものであったか、日本社会を良くしたかどうかの判定は後世の歴史家の仕事として残されている。しかし、これらの施策が国内外の時流に適ったものであったのは事実で、自民党長期政権が専ら負の遺産を生み出した訳ではないことは認めざるを得ない。それゆえ民主党もいつまでも自民党政権が悪かったとばかりは言っていられない。そして何より構造改革の必要性がなくなった訳ではなく、寧ろ必要性は深まっていることを認識する必要がある。小泉元首相は盛んに構造改革を口にした。小泉改革が成功したとはとうてい言えないが、構造改革自体が間違いだったのではなく方向性に問題があったと言うべきだろう。小泉後の自民党は構造改革の方向性の誤りを正すのではなく、改革を後退させる、あるいは改革の歪を拡大して自滅した。そして日本社会の構造改革という宿題は民主党に残された。

 なぜ構造改革が必要なのか。ある意味、それは当り前のことと言える。現代という時代、良くも悪くも国内外の情勢はめまぐるしく変化する。少なくとも数世紀という時間スケールでこの傾向が変わることはない。そして、その変化は短期的な変動だけではなく長期的で不可逆的変化を必然的に伴う。如何によくできた社会制度でもいずれは行き詰まる時が来る。それを回避するには制度の抜本的な改革=構造改革が不可欠となる。保守勢力が長期にわたり抵抗を続けても最後は改革せざるを得ない事態に陥る。それゆえ社会の損失を最小限に留めるには、適宜、構造改革を先行的に実行しないといけない。

 国内では、少子高齢化とそれに伴う福祉費用の増大、地方経済の疲弊、巨額の財政赤字、継続的な内需の不足、低い食糧自給率にみられる産業構造のアンバランスの是正など難題が山積している。国際社会を見渡せば、中国の台頭、中国・インドを含む発展途上国の国際政治における役割の飛躍的増大、経済のグローバル化とそれへの継続的な抵抗、環境・資源問題の重要性の増大、こういうトレンドが今後も続く。国内外のこういう状況に鑑みたとき、既成の制度を維持し問題解決を図ることには限界がある。現代の日本にとって構造改革は不可避なのだ。

 尤も適切な構造改革が一つの施策で実現できれば誰も苦労しない。課題はどこに着目し、どこから手を付ければよいかということになる。国内問題では年金制度改革、国際問題では対米並びに対中関係の再構築こそが第一優先の課題で、この二つの課題解決が他の課題解決に繋がると考える。そのために、今年は、普天間基地移転問題、年金制度改革に精力を傾注してもらいたい。普天間基地移転問題では対米関係がギクシャクすることは避けがたい。しかしこれまでの歴代自民党政権の対米一辺倒の姿勢では変化する国際情勢に対応することはできない。米国はあくまでも自民党政権時代の合意の遵守を要求するであろうから交渉は容易ではない。だが安易な妥協は問題を先送りするだけになる。政権交代した今こそ関係再構築の絶好の機会なのだ。それは米国と仲たがいをすることを意味しない。友好を再確認しかつ日本の自由度を増やすことが目的なのだ。それにより日本の外交は大きく膨らみを増し国政社会への貢献をより一層促進することが可能となる。基地移転問題は確かに難題だが、その目的実現のためには絶好の好機だと考えてもらいたい。一方、国内では少子高齢化が続くことを前提に年金制度を再構築し国民に安心感を与えることが極めて重要となる。人々に安心感を与えることができれば、国内消費も上向き内需も拡大する。余裕ができれば他の様々な課題に積極的に取り組むことができ改革も進めやすくなる。

 対米関係の再構築も年金改革も容易ではない。しかし今その道筋を付けなければ日本の将来に大きな禍根を残すことになる。民主党政権の前には数多の困難が立ち塞がっている。しかしこういう時代に政権を担うことを望外の幸運だと考え、前向きかつ真摯に問題解決に取り組んでもらいたい。


(H22/1/3記)


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