☆ 西洋中心主義を超えるために ☆

井出薫

 「オリエンタリズム」の著者で、西洋中心主義の厳しい批判者であったエドワード・サイード氏が9月25日亡くなった(享年67歳)。イラク戦争などアメリカの自国中心主義が強まるなか、本当に惜しい人を亡くした。心からご冥福をお祈りする。

 サイード氏は、私たちが、西洋中心主義的なものの見方、考え方に如何に強く支配されているかを教えてくれた。

 世界史の教科書をみると、「コロンブス、アメリカ大陸発見」という文字を目にする。だが、コロンブスがアメリカ大陸に到達したとき、すでに多くの先住民がそこに暮らし、西洋に劣らない独自の文化を築き上げていた。
 西暦が広く世界に普及していることは事実だ。だが、西洋・キリスト教文明圏以外の民族はそれぞれ独自の暦を持っている。西暦はイエス・キリストを信仰する者にとっては重大な意味を持つが、大部分の日本人のように、キリスト教徒ではない者にとっては便宜的なものでしかない。西暦に普遍的な価値などない。だが、日本人は、西暦に従って「世紀末だ」、「新世紀だ」などと言う。

 西洋中心主義は、あからさまな西洋崇拝だけではなく、このような日常的な生活態度の中で再生産される。アメリカの映画や音楽に熱狂するとき、私たちはそれと知らずにアメリカ中心的な場所で思考することになる。西洋の書物ばかり読んでいると自然と西洋的な思考が身につく。イスラムに対するイメージ、「戦闘的」、「男性優位」、「政教一致」なども西洋の書物から得られたものだ。

 西洋中心主義的な思考方法は根強く解消するのは容易ではない。だが、非西洋社会の一員である日本は、対米追従を止め、西洋中心ではない真のグローバル化に貢献する義務がある。そのために、私たちはサイード氏の著作をもう一度読み直す必要がある。

(H15/9/26記)


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