☆ 早くも正念場、民主党 ☆

井出薫

 前門のアメリカ、後門の科学者とでも言おうか、鳩山政権が苦しんでいる。

 筆者はアナクロと呼ばれかねない非武装中立論者だが、現実問題として、政権交代したからと言って、直ちに安保解消、自衛隊解散という訳にはいかないことは分かっている。当面は日米安保の枠組みと、その枠組みの中で築き上げられてきた日米の信頼関係を維持することが不可欠だ。だとすると米軍基地問題で一方的に沖縄県外又は国外移転を要求することはできない。だからと言って、戦前、戦後一貫して多くの犠牲を強いられてきた沖縄県民の要求を無視することも許されない。

 科学者が共同声明で仕分け作業に異議を唱えている。以前も述べたとおりスパコン開発には筆者も反対だが、科学技術予算全体の削減には賛成できない。資源に乏しく、食糧自給率の低い現在の日本にとって、科学技術は生命線であり、投資分野を慎重に選択する必要はあるが、全体として科学技術関連予算を一律削減するような愚を犯せば、鳩山政権は将来日本没落の責任者として糾弾されることになる。

 だが、巨額の財政赤字、不況、高齢化に伴う福祉予算の増大、温暖化ガス削減義務、核開発を放棄せず拉致問題でも歩み寄りを見せない北朝鮮、軍事経済両面で超大国化する中国への対応など、鳩山政権が数多の難題に直面して難しい舵取りを迫られていることは間違いない。自民党は政権を失い衝撃を受けているが、良い時期に政権から降りることができたとその幸運に感謝する日が来るかもしれない。

 民主党の選択肢は限られている。しかもどの選択肢も関係者全員を満足させることはできない。外交防衛政策では安保解消を含む日米関係の抜本的改革に着手するのが一つの選択肢であり、筆者の主張するところでもあるが、米国との関係悪化を覚悟する必要があり、また国内で左右の対立が激化し混乱を引き起こす危険性もある。予算策定では、福祉、医療・保健衛生、科学技術、環境関連の予算を充実し、その代償として、他の予算は大幅に削減するか、大企業を含む富裕層を中心にした課税強化策を取るか、どちらか(あるいは両方)を選択するしかない。しかし、いずれも景気悪化、国際競争力の低下を招く可能性は否定できない。

 民主党は重大な責任を担って政権に就いた。しかし、その覚悟と準備ができていたとは思えない。とは言え、自民党長期政権の下ではそれもやむを得ないことではあった。しかし政権を奪取した以上、逃げてはいられない。拙速は避けなくてはならないが、選挙目当てに右顧左眄をいつまでも続けている訳にはいかない。鳩山首相には腹を据え罵声を浴びることを覚悟して困難な決断をするときが迫っている。


(H21/12/7記)


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