井出薫
スーパーコンピュータ開発に年間268億円・総額1千億円超、高いか安いか?膨らむ財政赤字、景気低迷を考えるとやはり高いと言わざるを得ない。 スーパーコンピュータは日米の企業が市場を独占してきた。巨額の費用を要するスーパーコンピュータの市場は小さく、多くの企業が参入する余地はない。だから日米を除くとスーパーコンピュータの開発に熱心な国はなく、必要があれば購入すればよいという立場を取っている。そのスーパーコンピュータだが、一時期日本企業が世界記録を保持し優位に立っていた時期もあったが、近頃は米国企業に圧倒されている。ここで日本が開発競争から降りれば米国の独占状態になる。問題は、年間268億円総額1千億円超という決して安くない資金を投じてまで、世界一の座を奪還し米国の独占を阻止する必要があるのか、ということだ。 スーパーコンピュータ開発により、ソフト、ハード両面で新技術の開発が期待できるのは確かだ。雇用創出効果も幾らかはある。科学技術立国(と称する)日本のプライドもあろう。しかし財政状態が健全であるならばいざ知らず、現状でスーパーコンピュータに268億円もの税金を投じるのであれば、医療技術、ICT、バイオ、ナノテク、環境技術などに税金を回した方が、将来的にみて日本の科学技術に貢献するところは遥かに大きい。こういった分野で技術開発にスーパーコンピュータが必要になれば他の国と同じように米国から購入すればよい。 どんなに頑張ったところで、日本は米国や中国には規模では敵わない。何を研究開発すれば日本で暮らす人々を豊かで幸福にすることができるか、世界各国の福祉と平和に貢献することができるか、それを良く考えて税金を上手に使う必要がある。 現代社会はICTなしには成り立たない。しかし、ルータ、パソコン・ワークステーション・携帯電話のOSなどICTのコア技術は米国を筆頭とする欧米企業に独占されている。今更スーパーコンピュータが米国企業に独占されてもどうということはない。 80年代、日本は世界に先駆け第5世代コンピュータ(=人工知能)の開発に乗り出した。当初はいずれ日本が世界一のコンピュータ大国になると欧米からも警戒された。だが結果は、ICTのコア技術を欧米企業に独占されただけだった。第5世代コンピュータ開発が無意味だったとは言わないが、結果的には道を誤った。今、その教訓に学ばなくてはならない。 敗戦後の日本は、軍事技術を捨て、トランジスタ、バイク、小型車、家電製品など小さな技術、民生技術の開発に専心し戦後復興、経済発展を成し遂げた。中央を山脈で分断された細長い小さな島国に1億以上の人々が肩を寄せ合って暮らしている。それが日本という国だ。そしてその日本には戦争を絶対にしないという素晴らしい憲法がある。その日本の将来を考えれば、科学技術研究開発だけではなく軍事技術開発において威力を発揮する世界一速いコンピュータを血眼になって開発する意義は乏しい。日本は小さくて器用な技術で勝負するべきだ。コンピュータの処理速度で世界一になろうと野心を抱くより、iPodをソニーではなくアップルに開発されたことを悔しがった方が日本のためになる。 了
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