☆ 民主党政権の評価 ☆

井出薫

 民主党政権が発足して2カ月足らず、評価を下すのは早すぎる。とは言え、その出来栄えは気になる。「まあ、この程度だろう、概ね予想通り」というのが多くの市民の感想で、大きな期待をしていない分、さほど失望することもない、というのが実情で、今のところ高い支持率を維持している。

 政治主導は早くも崩れたと批判する者が少なくない。だが国会議員数、約720名、この程度の人員で、膨大な行政実務を取り仕切ることは不可能で、精々、国会のテレビ中継でそれらしい演出をするのが関の山となる。そもそも課題は閉鎖的になりがちな行政組織に外部からの風を入れ、公平性、透明性、効率性を高めることができるかどうかであり、政治家が上か官僚が上かなどということは実はどうでもよい。政権交代のたびに行政が滞るようでは社会の安定は保てないから、官僚が一定の権限を持つことは不可欠で、極端な政治主導は寧ろ独裁に繋がる。それゆえ現時点で民主党は公約違反だと非難するのは適切ではない。個別の課題として、政策決定の過程に外部の中立的な第三者機関と市民の意見を取り込む仕組み作りと、旧態依然の国家公務員のキャリア制度の抜本的改革が挙げられる。容易ではないが、この二つを実現すれば民主党政権は公約を果たし、その功績は歴史に残るものと評価されよう。

 経済運営は難しい。自民党長期政権は、やむを得ない面もあったとは言え、放漫経営で巨額の赤字財政を生み出した。財政を健全化し、同時に福祉水準を向上させていくことは容易ではなく、ここでも中立的な外部機関と市民の協力が欠かせない。

 外交は継続性が大切で、政権交代があったからと言って前政権から180度の政策転換はできない。政権内、民主党内でも意見の相違は大きく舵取りは難しい。ここは長い目でみる必要がある。

 人権などの面では、在日外国人の地方参政権が注目される。異論が多く、弊害が生じる恐れなしとは言えないが、民族融和、国際平和促進、人的交流活性化のためにも実現が強く望まれる。とは言え、十分な議論がなされているとは言えず、拙速は将来に禍根を残す。ここは民主党政権の手腕に期待したい。

 環境問題では、実現に向けての青写真もないまま25%だの、80%だのという数字を挙げることには賛成しかねるが、積極的に取り組もうとする姿勢は評価できる。ただ環境問題には、温暖化ガスだけではなく多くの課題が含まれていること、環境と経済は短期的にはトレードオフの関係にあることを忘れてはならない。環境問題は特定のイデオロギーに囚われずバランスのとれた現実的政策を実現することが大切で、様々な分野の専門家の意見を取り入れ、市民参加の下で政策決定・実行・点検・調整が遂行されるよう強く望まれる。

 課題は山積で、多くの市民が予想している通り、民主党政権になったからと言って大きな期待はできない。だが最終的に決めるのは我々一般市民だということを忘れてはならない。もとより一般市民は一枚岩ではない。寧ろばらばらだ。八ッ場ダム問題でも、地元住民の多くは建設推進派だろうし、ゴミ問題などでは市民同士の対立は大きい。真の民主主義が実現困難な理由は、市民がばらばらで一つの方向にベクトルが揃うことがない、揃うと却って独裁や戦争を引き起こし碌でもないことになる、この二点にある。それでも、ある程度生活に余裕がある者ならば、オープンで合理的な議論を通じて、一定の譲歩をし、独善的ではない合理的な判断を下すことができる。完全にベクトルが揃うことがなくとも、緩やかなコンセンサスを作り出すことは常に可能なのだ。そして、市民が、合理的かつ公平な精神で、広く政治に関与することで初めて社会は改善される。政権交代が定期的に行われることは選択の余地が増えるという意味で望ましいが、それだけでは得られるものは少ない。政権交代を機に、多くの市民が積極的に政治参加するようになることを期待したい。まさしく、そういう状況を作り出すことこそが民主党政権の使命だと言える。


(H21/11/9記)


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