☆ 心の健康 ☆

井出薫

 メンタルヘルスケアに取り組んでいない職場が5年前より3ポイント増え76.5%に達していることが労働厚生省の調査で判明したと9月1日の朝日新聞が伝えている。自殺者が依然として年間3万人を超え、特に中年層の自殺者の増加が大きな社会問題となっているなか、企業の取り組みがこのような有様では先が思いやられる。

 確かに社員のメンタルヘルスケアは難しい。私的な領域である心の問題に企業が過剰に干渉することは好ましくない。血圧のような、心の健康度を示す定量的な目安があるわけではなく健康かどうかの判断は難しい。メンタルヘルスケアが重要な課題であることが分かっていても、何をするべきか分からないという企業も少なくないだろう。だからと言って何もしないでよいというわけにはいかない。

 企業に、精神科医や臨床心理士など専門家を配置した心の相談室を社内に設ける、あるいは地域の専門機関と契約して社員が利用できるようにするなど、メンタルヘルスケアへの取り組みを法的に義務付けるべきだ。中小企業には負担が大きすぎるというのであれば補助金など支援制度を作ればよい。

 心の健康維持のためには、専門家任せでは不十分だ。身体の病気であれば、専門家の指示に従うことで病人は自然と治癒するが、心の病はそうはいかない。心の病に罹った者に対して周囲が十分な理解を示してやらなければ病は回復しない。だが、これが難しい。

 各職場に訓練を受けたメンタルヘルスケアのリーダーを配置し組織的にメンタルヘルスケアに取り組むという方策が考えられる。だが、このような方策では、メンタルヘルスケアと称して、社員のプライバシーの組織的侵害が横行するという危険性がある。

 残念ながら、これと言った決定的な処方箋はない。だが、社員のメンタルヘルスケアは企業の責務であり、積極的な取り組みが必要であることだけは間違いない。

(H15/9/11記)


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