☆ 街にみる景気と対策 ☆

井出薫

 日が暮れてから秋葉原に寄ると景気が悪いことがすぐに分かる。1年前はあれほど賑わっていたのに、表通りはまだしも裏通りは人影が疎らで、店は閑散とし、倒産したのかシャッターを閉じたままの店舗も少なくない。

 1年前に集って来た人はどこに行ったのか。皆お金をなくしてしまったのだろうか。そうは思えない。日本人はアメリカ人のように資産の多くを株式や金融派生商品で運用していたわけではないから資産を失ったわけではない。契約を切られた派遣社員などは別だが、収入もさほど落ちていない。それなのに街は様変わりしている。少し前までは、客がゆっくり商品を見て歩くことができるように店員から客に声を掛けることは少なかった。しかし今は暇そうにしている店員がすぐに声を掛けてくる。何とか売り上げを伸ばしたい。その気持ちは分かるが効果は薄い。店が賑わっていた時には早く買わないと売り切れになるという心配があった。残り3台!と書かれた張り紙の前で迷っていると買っていく者がいる。慌ててこちらも購入する。しかし今はそういうことはない。一年前は「あっても良い」だったが、今は「なくても良い」に変わった。

 しかし良く考えてみると、1年前、私たちは要らない物をたくさん買っていたことに気が付く。環境と資源の制約から先進国では大量生産・大量消費・大量廃棄の時代は終わった。これからは物を大切に使い余計な物は買わないようにライフスタイルを転換する必要がある。だとすると街が閑散としているのは寧ろ正常な姿と言える。

 新しいお金の使い方を考えなくてはならない。物を買うのではなくサービスを買い、所有ではなくレンタルする、こういう転換が不可欠だ。ただそれだけでは景気が低迷する。だからお金が流れる新しい事業が必要になる。それは何か。環境と福祉の二つが最も有力な分野だろう。さらに大量生産・大量消費の象徴だった都市集中から地方への分散が必要となる。

 各国の政府と中央銀行は財政出動、金融緩和という伝統的手法で景気回復を図っている。それ自体は正しい政策だが、それだけでは将来の展望は開けない。一時的に景気が回復しても、将来のより大きな危機を準備することになる。新しい事業の創設、都市集中からの脱却を同時に推進することが望まれる。勿論容易なことではない。しかし人類は危機を乗り越えることで進歩を遂げてきた。今回の危機を新しい時代の幕開けにしたい。



(H21/2/17記)


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