井出薫
財政赤字は景気悪化で益々膨らんでくる。現状を鑑みれば、景気回復を前提に消費税率の引き上げはやむを得ないと考える。だが現在の一律課税方式を維持したままで消費税率を引き上げることには反対だ。 消費税は消費者だけが支払い企業は支払わない。これは企業優遇だという批判があるが少し違う。支払うのは消費者だが負担するのは消費者だけとは限らない。消費税率が上がれば商品価格は上がる。価格が上がれば需要は減少する。すると企業は価格を引き下げるしかなくなる。だから消費税は専ら消費者だけが負担しているのではなく企業も負担している。問題は消費者と企業の負担の割合だ。価格弾力性が高い商品つまり価格が上がると急激に売れなくなる商品の場合は企業の負担が大きくなる。一方、価格弾力性が低い商品は消費者の負担が大きくなる。 価格弾力性が低い商品=消費者の税負担が大きい商品は何だろう。食品、衣料品、(高級住宅を除く)住宅費など生活必需品の類が思い浮かぶ。これらは価格が高くなったからと言って簡単には消費量を減らすことはできない。だから価格弾力性は低い。一方で嗜好品や娯楽品・サービスなどは価格弾力性が高い。海外旅行などは運賃や為替の変動がすぐに需要に反映する。厳密に言えば、このようなモデルは単純すぎると言われるだろうが、税負担を議論する上では役に立つ。 このモデルから分かることは何か。低所得者ほど支出に占める生活必需品の割合が高いから、消費税増税は総じて低所得者により大きな打撃を与えるということだ。ただでさえ消費税は所得のほとんどを消費に回す低所得者にとって不公平な重税なのだから尚更だ。だから(ほぼ)全ての商品に一律に消費税を課す現行税制を維持したまま税率だけ上げたら低所得者の家計は崩壊の危機に陥り格差は拡大し日本社会は極めて不安定になる。 だから消費税率引き上げの条件として、生活必需品を消費税の対象外にするか、低所得者に対して消費税免税あるい消費税の還付を実施することが不可欠だと考える。ところが税率の引き上げだけが前面に出て、課税対象の議論が疎かにされている。麻生首相は与党内からの反対にも拘わらず消費税増税論を貫いた。正直少しは見直したが、さらに消費税の課税対象の見直しについて議論を深めてほしい。途中でぶれたが首相は一時期「高額所得者は給付金を辞退するべきだ。それは矜持の問題だ。」と論じた。同じように税は余力のある者が第一に負担するべきで、まさにそれが富める者の矜持ではないだろうか。 了
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