☆ 通信事業者の憂鬱 ☆

井出薫

 IP電話、FTTH、IPセントレックスなど矢継ぎ早に電気通信事業者各社は新サービスを導入している。だが、その割には各社とも顔色が冴えない。特に地上系通信事業者の苦悩は深い。

 「新サービスを提供しても収入は伸びない、むしろ減収になるくらいだ。だからと言って、新サービスの導入を躊躇していると他社にお客様を持っていかれる。」これが通信事業者の本音だ。実際、携帯電話会社を除いた地上系通信事業者の収益は軒並み減少傾向にある。

 IP電話など、ただでさえ市場が縮小している固定電話の収益をますます圧迫する。しかも固定電話より利が薄い。つまり、自らの手で事業の減収傾向に拍車を掛けているようなものだ。競争が激しいとは言え、なぜこんなことになるのか。

 車や化粧品などには価格が高いほど消費者の購買意欲をそそる製品がある。ベンツは、性能やデザインが素晴らしいのは事実だが、価格の高さも魅力のひとつになっている。ベンツが50万円になったら、誰も買わないだろう。通信サービスには、こういうブランド性がなく、価格の高さが消費者の購買意欲を刺激することはない。速度1Mの低価格ADSLが売れていることがその象徴だ。
 それに、通信サービスには自動車やクーラーのような有難みが感じられない。子供のころ家にクーラーが取り付けられたとき、これで寝苦しい夜から解放されると思うと本当に嬉しかった。あの感激はいまでも忘れられない。こんな有難さは通信サービスにはない。インターネットも携帯も便利だが別になくても困らない。
 だから、競争が激化すれば価格破壊が生じることは避けがたい。

 通信事業者の憂鬱は続くだろう。通信は社会のインフラだ。重症の鬱病にならないとよいのだが。

(H15/8/22記)


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