☆ 不幸から学び改革へ ☆

井出薫

 今年は総じて不幸な出来事の多い年だった。中国の大地震など大規模な災害、金融不安を引き金にした世界的な景気後退など多くの不幸が世界の人々を襲った。地震などは天災だからやむを得ない面もあるが杜撰な工事が招いた人災という側面も無視できない。国内では食の安全、医療体制、社会保障などの分野で多くの欠陥が露呈し人々の不安を掻き立てている。

 人の力は限られており、いくら科学技術が発達し、社会制度が改善されてもこの世から不幸の種をなくすことはできない。だが今年ほど現代社会が多くの欠陥を抱えていることが明らかになった年は珍しい。

 しかし見方を変えれば、多くの不幸な出来事を通じて改善するべき点が明らかになったとも言えるし、一旦落ちることで新たな出発が可能となると言える面もある。

 一例を挙げれば環境問題だ。世界中で環境問題の重要性が叫ばれながら、ドイツ、イギリス、オランダ、北欧諸国などを除くと温暖化ガスの排出量削減は上手く行っていない。日本は90年の水準よりも大幅に二酸化炭素排出量が増えており、京都議定書の目標6%削減の実現は困難な状況となっている。だが景気後退は二酸化炭素排出量増加を抑制する力になる。一般的に不況は環境面では寧ろプラスに働く。不況は多くの人々の生活を脅かすから環境を景気対策に優先させるなどということはできない。しかし二酸化炭素排出量を増やさずに景気回復できれば将来に大きな希望をもたらすことになる。そしてその可能性はある。すでに単純な大量生産・大量消費・大量廃棄という既存の路線では遣って行けないことを多くの人が認識している。それを維持しようとしたら貧しい国に永遠に貧しいままで我慢させなくてはならないが、勿論そんなことが許されるはずがない。だとすると環境に好ましい技術の開発普及は必然となる。さらに経済と環境の両立を社会の目標として定めることで環境の維持改善を目的とする様々な事業の立ち上げが期待される。不況は、こういう環境志向の経済へと社会を転換させるよい機会になるはずだ。

 私たちが直面している多くの課題はいずれも容易に解決できるものではない。だが解決不可能ではない。問題を理解し、解決のために人々が過度な私欲を捨てれば道は開けてくる。来年は国内では選挙がある。世界一の大国アメリカでは新大統領が就任する。将来の歴史家たちが2008年という暗い年が社会の改革を大いに促進したと評するようにしたい。



(H20/12/31記)


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