☆ 迷走する給付金 ☆

井出薫

 給付金を所得に関係なく一律に支給するのか、低所得者だけに限定するのかで政府が揺れている。

 常識的には所得制限をするのが妥当だろう。大金持ちのために税金を投じる必要はない。だがそもそも給付金の目的は何だったのか。景気対策ではないのか。だとすると寧ろ一律に支給した方が効果的だ。生活に余裕のある者にとって給付金は予期せぬ嬉しいボーナスで間違いなく消費する。しかし低所得者は将来不安で貯蓄に回す可能性が高い。低所得者への給付金は景気対策としては効果が薄い。 所得制限をするにしても線引きが難しい。たとえば同じ600万の年収でも、子供が3人、多額の家のローンがあるという者と、独身で親からもらった家で生活し未だ若く将来昇進して収入増が見込める者とでは生活の余裕が全く違う。そうなると1000万円から1500万円くらいが目安となりそうだが、支給対象外の者の割合が低くなり制限することの意義が薄れる。

 給付金が低所得者層を支援することが目的ならば、一度限りの給付金では支援にならない。低所得者層の税率引き下げ、最低賃金の引き上げ、雇用機会の創出などこそが本当の意味での支援策になる。勿論そういう政策も実施すると与党は言うだろうが、給付金ばかりが先行して肝心の恒久的な支援策がはっきりしない。

 もともと給付金でなく定額減税のはずだった。しかし定額減税方式では税金が免除されている低所得者への支援にならないということでいつの間にか給付金にすり替わった。ならば免税されている者だけに給付金を出せばよいと思うが何故かそういう策は議論にならなかった。

 給付金を一体どうやって支給するのか。これも問題だ。役所に取りに行けとでも言うのか。それとも口座に振り込んでくれるのか。口座のない者はどうするのか。いずれにしろ膨大な費用と労力が必要となる。さらに所得制限をするとなると所得の確認が必要で気が遠くなるような話しになる。

 景気対策の一方で景気回復後の消費税率の引き上げが提案されている。消費税率の引き上げに端から反対するつもりはないが、中長期的政策が曖昧なままに、いま給付金や高速道路料金の引き下げを目玉とした景気対策をするから消費税率の引き上げを認めろというのは無茶な話しだ。

 結局給付金は選挙対策のばら撒きとしか映らない。関係各位で知恵を出し合って、国民世論にも配慮して、もう少しましな政策を打ち出してもらいたい。


(追記)
 ジャーナリストの筑紫哲也氏が11月7日亡くなった。享年73歳。本当に惜しい人を失った。筑紫氏が元気であれば今回の給付金騒動をどう評論しただろう。物事を皮相的にしか見ることができないジャーナリストもどきがメディアに溢れている今こそ、筑紫氏のような真のジャーナリストが必要とされていた。心から筑紫哲也氏のご冥福を祈りたい。

(H20/11/9記)


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