☆ 強硬路線の破綻 ☆

井出薫

 北朝鮮が拉致の事実を認めて一部の拉致被害者が帰国してから6年が経つ。だが問題解決のめどが一向に立たないまま、米国の北朝鮮に対するテロ支援国家解除が決定した。国内の保守派政治家・言論人や拉致被害者家族の会はこの6年間一貫して制裁による解決という強硬路線をとってきたが、失敗に終わったと言わなくてはならない。

 6年前に北朝鮮が捏造と主張し続けてきた拉致問題を認めた背景には日本からの見返りへの期待があったと思われる。日本とすれば小泉訪朝に続いて国交正常化、経済支援の交渉を開始し、その中で拉致問題解決を図ればもっと良い結果を得ることができたのではないだろうか。ところが国内では、保守強硬派の政治家、言論人、メディアが北朝鮮非難の大キャンペーンを繰り広げ、拉致被害者の家族もその流れに乗り、国を挙げて拉致問題解決なくして国交正常化交渉なし、経済制裁により譲歩を迫れ、という強硬路線が定着し、6年間何も進展がないままただ時が過ぎてしまった。しかも、その間に、日本の経済制裁が北朝鮮には何よりも堪えるなどといい加減なことを語る言論人が登場したり、ブッシュ大統領が横田夫妻と会談して感銘を受けたなどと調子の良い発言をしたりして、日本は軌道修正の機会を失うことになった。

 拉致は犯罪であり、犯罪に対して如何なる譲歩も不要というのは原理原則的に言えば正しい。だが金正日政権が北朝鮮を有効に支配していることは事実であり、ただ建前論を繰り返して、言うことを聞かなければ制裁だ、では外交にならない。硬軟取り混ぜてしたたかに交渉しないと先には進まない。保守強硬派政治家や言論人はこれまで革新派やリベラル派の政治家・言論人の言動を空理空論、現実を顧みない不毛な理想論と揶揄し批判してきた。ところが、こと北朝鮮問題では自分たちこそ空理空論、非現実な理想論を展開していることに気付かず、気付こうともしない。

 このままでは日本は拉致問題を解決できないままに北朝鮮の核の脅威に晒されるだけに終わる。保守、リベラル、革新関係なく、現実をしっかり認識して適切な対応を求めたい。それが結局は拉致被害者とその家族のためになる。



(H20/10/14記)


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