☆ 動揺することはない ☆

井出薫

 株価や為替の動きをみていると、いかに人がその場の気分で動くかが良く分かる。金融危機は事実だが大手製造業がばたばた倒産しているわけではない。世界的大凶作に見舞われ食糧が底をついた訳でも、新型インフルエンザで世界の労働力が一挙に半減した訳でもない。金融バブルが弾け一部の金融・証券取引関係企業が破綻しただけで、いつかは元に戻る。落ち着いて成り行きを見守っていればよいのだ。株価の下落に慌てて判断力を失い、賃下げやリストラ、便乗値上げなどを容認しないように注意することこそが大切だ。

 とは言っても、斯く言う筆者も株が下落して気持ちが後ろ向きになっている。50半ばが近くなり将来に不安があることも大きな要因だが、株価が下落した分を少しでも穴埋めしようと、東北旅行は止めて近場の散策で済ますことにしたり、カツ丼セットを親子丼セットにしたりとセコイ対策に走っている。こういう心理が株価の下落に繋がっているのだろう。人のことは言えない。だが、筆者も含めて、不必要に動揺したり、効果の薄い対策をしたりするのではなく、よく状況を見て考えることが必要だ。

 各国政府が毅然たる態度で信用不安の解消に乗り出すことを宣言して実行に移せば問題は解決する。傷ついたシステムは容易には完全修復しないだろうが、(良し悪しは別として)いずれ時が解決する。それにしても、この危機に乗じて空売りや底に入った株を大量に仕入れて利益を得る者が少なからずいる。大手金融機関はいざとなれば政府が資金を投入して救済すると高を括っていられることも明らかになった。破綻すれば経営者は責任を問われるが、その前に何十億、いや何百億という資産を手にしている。その一方で、中小企業や派遣社員などはバブル崩壊のとばっちりをもろに受ける。前にも述べたとおり、ここにこそ資本主義の根本的な欠陥がある。私たちはもっと賢くならないといけない。今こそ火事場泥棒的な輩から社会的富を真面目に働く世界の勤労者の手に取り戻すときなのだ。



(H20/10/13記)


[ Back ]



Copyright(c) 2003 IDEA-MOO All Rights Reserved.