☆ メディアと盛り上がらない総裁選 ☆

井出薫

 自民党総裁選の立候補者の顔ぶれは多彩だが一向に盛り上がらない。雑誌メディアには「茶番劇」という言葉が一様に並んでいる。麻生氏の圧勝が最初から決まっているのだから盛り上がらないのも当然かもしれないが、福田首相で決まりだった昨年の総裁選以上に盛り上がらないのはちょっと解せない。

 やはり今回はメディアが気を使っているように思える。これまでメディアが総裁選を派手に報道することが自民党に有利に働いてきた。途中で短い中断時期はあったものの戦後一貫して自民党(その前身も含む)が政権を担当してきたこともあり、「自民党総裁=首相」という図式が国民の頭に植え付けられており、総裁選のたびにそれが再生産されてきた。自民党に批判的な人々ですら無意識のうちに、この図式に従って思考回路が動くようになっている。それが自民党に極めて好都合であることは言うまでもない。

 自民党の党員数は日本国民の1%程度に過ぎない。その程度の党員数の党員投票と自民党国会議員の投票で決まる自民党総裁など、国民の多くの層の支持を得たアメリカの大統領候補などとは比べる余地がないほど、ローカルな一党派の首領に過ぎない。そのような人物を、イコール「首相に相応しい人物」と考えるのは全くの錯覚と言わなくてはならない。

 そのことはメディアも十分に分かっていたことだろう。だが視聴者や読者の歓心を買うことが私企業として死活問題であるメディアはこの事実に目を瞑ってきた。だが今回ばかりは衆議院選挙が近いと予測されること、選挙後民主党を中心とした政権が誕生する可能性があることから、過剰な報道を自粛しているのだと思われる。

 これはメディアの見識だと評価したい。自民党は政権を一時的に担当している一政党に過ぎない。長期政権の弊害を取り除き日本の社会を活性化するために政権交代は非常に有力な手段だ。それをメディアがたとえ意図していないとしても阻害するようなことがあってはならない。自民党総裁選などは三面記事として扱い、日本の現状とその問題点、並びに、どのような政策が選択肢として考えられるのか、こういう話題を中心に報道を行ってもらいたい。



(H20/9/16記)


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