井出薫
船場吉兆が廃業に追い込まれた。他の客が箸を付けた料理を別の客に出すようでは当然の成り行きだろう。だが料亭や旅館では食べ残しが物凄く多く、そのまま捨てるのは甚だもったいないのも事実だ。斯く言う筆者も宿泊先の旅館でビールを飲み過ぎ腹一杯になり、舟盛の新鮮な刺身をほとんど手も付けずに下げてもらうことが度々ある。月並みな言葉だが、高級料理が食べ残され捨てられている一方で、世界には飢えに苦しんでいる人がたくさんいる。口先で反省したり批判したりするだけではなく真剣に対策を考える必要がある。 そこで思いついたのだが、食べ残し税なる税金を設けたらどうだろう。料理を食べ残した者から税金を徴収し国際援助の基金として使う。これは決して不合理なことではない。食べ残しは生ゴミとして処理される。生ゴミの処理と胃腸で吸収された後の排せつ物の処理とどちらが多くの資源を消費し二酸化炭素を排出するだろう。計算をしたわけではないが、し尿処理が合理的に行われていれば生ゴミ処理の方がずっと環境負荷が高いはずだ。だから食べ残す者から税金を取るのは炭素税と同様に理に適ったことだと言える。 食事を注文する客だけではなく、店にも不必要な量を提供しないように勧告し、食べ残しが出たときには店からも税金を徴収する。近頃生ゴミ処理はどの自治体でも有料でその上食べ残し税まで徴収したら二重課税で税の原則に反するなどと屁理屈を捏ねる者がいそうだが、ならば生ゴミ処理料を値上げしてもよい。 こうすれば食べ残しは大幅に減る。メタボは解消され医療費削減に繋がり、浪費されていた食糧を貧しい人々に振り向けることができる。さらに都市に人口が集中している現代、国内の食糧生産地や海外から食料を運んでくる船が停泊する港から店まで食材を届けるのにも少なからぬ資源が消費されるが、それも削減でき二酸化炭素の排出量も減る。こうした相乗効果が広がり、食べ残し税制度は日本の省資源・二酸化炭素排出量削減に大きな貢献をすることになる。 課題が二つある。税額計算の基準を何にするかが第一の課題。食事代金を基準とするか、カロリーを基準とするか、市場経済的には前者が合理的だが、環境への配慮を重視すれば後者が合理的になる。この辺りは今後の検討が待たれる。もう一つの課題は税逃れのために無理食いする者が多数出てくる危険性があることだ。筆者の周囲を見渡しても、(実は筆者も含めて)そういう馬鹿が少なくない。食べ残し税の趣旨を政府と環境学者など識者が国民に良く説明して啓蒙することが必要になる。 いずれにしろ、船場吉兆廃業を単に不正行為をした店の破たんとして片付けるのではなく、その背後には重大な世界史的な課題が潜んでいることを認識する必要がある。 |