☆ 報道する理由が必要だ ☆

井出薫

 三浦氏逮捕のニュースが週刊誌だけではなく全国紙や民放キー局でも連日のように報道されている。

 たしかに日本で無罪が確定して米国で再起訴されることは珍しい。三浦氏のロス疑惑は週刊誌等で派手に報じられ彼の名前を覚えている日本人は少なくない。だが日本国内でも年間500件の殺人事件が発生しているというのに、これほど大騒ぎして報道する必要があるのだろうか。米国のメディアからはシンプソン事件以上だと皮肉られている。

 報道の素材は無数にある。何を報道するかは各報道機関の自由だが、報道する理由が明確になっていないといけない。読者・視聴者の歓心を得るため、他社が報道しているからなどという理由では報道の責務を放棄していると言わなくてはならない。

 一事不再理は法の大原則だと学生時代に習った。遡及適用は認められないとも教えられてきた。だから今回の逮捕は法の精神に反し許容できないと報道各社が考えているのであれば、大々的に報道し、世論を喚起して米国側へ圧力を掛けることは人権擁護として大いに意義がある。ところが報道内容からみると、報道各社にはこうした明確な視点が見当たらない。これでは他にもっと報道するべきことがあると言わざるを得ない。

 報道機関と言ってもNHKを除けば民間企業で利益を得る必要がある。だから読者・視聴者に阿ることがあってもある程度は許される。だが暫定税率や防衛省問題で政界が激震し、景気後退の恐れが強まっている現在、興味本位の報道をしている暇はない。報道の責務を自覚してもらいたい。

(H20/3/4記)


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