☆ 地方の振興 ☆

井出薫

 昨年10月末、すでに冬の到来を告げている秋田を旅行したとき、地方では道路の整備がまだ不十分であること、雪国では冬の間住民の生命線である道路の維持に大きな費用が掛かることを実感した。鳥海山の麓にあり観光名所の一つである法体の滝の見物を楽しみにしていたのだが、すでに積雪で道路は閉鎖しており、滝は次回までお預けとなった。

 暫定税率の問題で国会が揉めている。なるほど暫定税率廃止に反対している議員や圧力団体の中には既得権益を守るために反対している者もいるに違いない。有力政治家たちが票集め・資金集めのために作った無駄な道路も少なくなかろう。だがそのことを以って、道路特定財源は一般財源化するべきだ、暫定税率は廃止するべきだと決めつけることはできない。きちんと日本全体の道路整備の現状と道路の維持に要するコストを見極める必要がある。一部の不心得者の行為から政策の意義を否定してはいけない。民主党は一般財源の中から必要な道路建設費や維持費は捻出すると口当たりのよい言葉を吐いているが本当に実行可能か検証が必要だ。暫定税率の廃止が、地方の切り捨て、あるいは逆に一般財源の圧迫、赤字国債発行額の増大に繋がることも懸念される。さらに二酸化炭素排出問題を考えればガソリンの消費者価格を下げればよいというものではない。少なくとも都市部では自転車や公共交通機関を利用してガソリン価格上昇に消費者はある程度防衛手段を取ることができる。

 問題の根底には、国と地方の税収が6割4割、支出が4割6割というアンバランスがある。その結果、地方は財政的に自律できず国だよりになる。地方自治体が、暫定税率が廃止されればただでさえ不足気味の予算がさらに削られるという危機感を持つのは理解できる。暫定税率廃止に当たっては、国から地方への税源移譲を実現することが欠かせない。

 中国製冷凍ギョーザの農薬混入で大騒動になっているが、日本の農林水産業の生産力では国内需要を満たすことは不可能で外国製品に頼らざるを得ない。こういう現実がある限り、安全性に疑念が残る製品が流通することもある程度覚悟しなければならないだろう。高度成長期以来、日本は都市と工業・商業の発展を重視し、地方と農林水産業を軽んじてきた。それは資源に乏しく農地に利用できる大地が少ない日本としてやむを得ない選択だったかもしれない。だが現状は余りにも偏りが大きい。首都圏は新型インフルエンザが流行すれば短期間のうちに1千万人の患者が出ても不思議ではないほど人口が密集している。その一方で地方は閑散としており、しかも高齢者ばかりが目につく。人口の偏りは少子化の原因の一つにもなっているはずだ。

 地方の活性化、脱首都圏、一次産業の復興は日本の将来のために欠かせない。与党の暫定税率延長案を支持するつもりはない。他にも財源捻出の方法はあるはずだ。だからと言って短絡的な議論で暫定税率の廃止を決めるのも問題が多いと言わざるを得ない。大手マスコミも、読者・視聴者が大都市に集中し、記者・編集者・幹部が揃って首都圏に在住していることもあり、大都市からの視点が強調され、地方からの視点を無視した議論が展開されることが少なくない。

 秋田には自然の美しさがたくさん残っている。東京には新しく竣工した高層ビルなど人工的な美がたくさんある。どちらが良いなどと比較できるものではないが、両者が地域的に分離しているよりは、一つの場所で共存している方がより美しく、より人を豊かにする。国家百年の計と言えばいささか大袈裟になるが、長期的かつ広い視野に立った政策論争が望まれる。

(H20/2/12記)


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