☆ 2008年は? ☆

井出薫

 世界経済の牽引車であったアメリカ経済にサブプライムローン問題で失速の兆しがあり予断を許さない状況、高度成長を続ける中国は五輪もあり今年も高度成長が続く見通しだがバブル発生の懸念が強まりこちらも楽観は許されない状況、しかも共産主義国でありながら格差が広がり、さらには世界一の二酸化炭素排出国になりつつある現状では中国の行く末もけっしてバラ色とは言えない。こういうこともあってか新年早々株価も低迷している。

 国内に目を転じると、衆議院と参議院のねじれ状態で法案もろくに通らない状況が続き、年金問題も予想通り解決のめどが立っていない。内需が弱く輸出頼りの日本経済はアメリカや中国の経済が弱体化すれば連動して低迷する構造になっており、企業の業績は史上最高などと言っても、その力は弱々しい。経費削減と一時的な特需で持っているだけだ。

 では、2008年はどうなるのか。おそらく自民党政権の終りが来るだろう。支持率低迷の現状では自民党は解散に打って出ることはできない。支持率回復を待つしかないが、年金問題はかたがつく見込みがなく、長年自民党の支持基盤だった地方は小泉改革の影響もあって自民党離れが急激に進んでいる。どこまで引っ張っても自民党が勝てる状況は生まれない。4年の任期が切れる来年まで解散を先延ばしにしても、勝てる見込みはない。支持率が回復しない状況では時間が経てば経つほど民主党の選挙態勢が整い勝負は不利になる。ならば国民としては一日も早い政権交代を望みたい。

 民主党が頼りになるかどうかは全く分からない。しかし、敗戦直後の片山内閣、細川内閣のごく一時期を除いて戦後一貫して政権政党として君臨してきた自民党の賞味期限は切れかけている。いやすでに切れていると言うべきだろう。戦後の平和や経済発展を考えれば自民党政治のすべてを否定するのは公平ではなく、その功績は高く評価するべきだ。だが杜撰な年金管理、防衛庁の不祥事、薬害肝炎などに代表されるように長期政権は腐敗し、もはや自浄能力も期待できない。この際、リスクがあっても政権交代が日本の未来のために不可欠だ。そして事実そうなるはずだ。

 経済はどうなるのか。素人の筆者には全く予測がつかない。アメリカ経済が失速して世界的な不況が来るかもしれないし、五輪で沸く中国、新大統領誕生で自信を取り戻したアメリカ、この二つの原動力が年の後半には威力を発揮して、世界的にそして日本でも景気が上昇気流に乗る可能性もある。

 だが、いずれにしろ、長期的にみれば2008年は困難な時代の始まりになるだろう。二酸化炭素削減はいよいよ喫緊の課題となってきた。アメリカと中国という二大排出国もようやく本腰を入れるようになっている。だがそれでも解決のめどが立ったとはとうてい言えない。当然の権利として経済発展を求める発展途上国で二酸化炭素の排出量を削減することは現実的には不可能だろう。それどころか人口は発展途上国を中心として急速に増大しており経済成長プラス人口増で二酸化炭素排出量は急速に増加すると覚悟しなくてはならない。だからと言って、発展途上国の人々に貧しさに耐えろなどと言える者はこの地上に誰もいない。災厄をもたらすのは二酸化炭素だけではない。メタンなど他の温室効果ガス、様々な有毒物質、環境ホルモン、増大する放射性廃棄物、対策が急務でかつ困難な有害物質が至るところに山積している。資源の枯渇も深刻化することが間違いない。人口増加と土壌の破壊で食糧も不安がある。マルサスの予言がいよいよ現実のものとなるかもしれない。先進国と発展途上国、発展途上国内部での政治的、宗教的、民族的な対立も解決の見通しが立っていない。この状況ではテロがなくなることも期待できない。

 先進国の人間は欲望のままに生きるのではなく我慢することを学ばなくてはならなくなる。たとえば自動車の所有と使用を制限することが必要になる時が来るかもしれない。消防や救急車などの公益機関と公共交通機関以外は、一般市民には自動車の使用が禁止され、徒歩か自転車を使うことが義務付けられる。そうなれば隆盛を極めた自動車産業は崩壊するだろう。だが有限の宇宙船地球号を健全な状態に保ち、世界人口が増大する中で全ての人々に公平に安全で幸福な暮らしを与えるにはこういう措置が不可欠になることは大いにあり得る。

 先進国の人間の感覚からすれば、これは暗い未来像かもしれない。だが大量消費が人間の幸福なのだろうか。それが良い社会なのだろうか。ソクラテスに戻って哲学すれば、まったく異なる答えが発見されるかもしれない。2008年は困難を自覚して生きていかなくてはならない年になる。だがそれは真の意味で世界の全ての人々が公平に幸福になれる社会の幕開けとなるかもしれない。

(H20/1/9記)


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