☆ 人身事故と損害賠償 ☆

井出薫

 また、人身事故で電車が止まっている。自殺は許されない。命を破壊し、家族や友人を苦しめ、悲しませ、社会に損害を与える。自殺には連鎖反応も多いと聞く。自殺は犯罪的行為であり、自殺を助ける者は自殺幇助罪となる。だが、遺族には責任はないはずだ。

 飛び込み自殺をすると、膨大な額の損害賠償が遺族に請求される。なぜ、遺族が損害賠償しなくてはならないのか。知人の弁護士に聞くと、「飛び込み自殺をした者は、列車の運行を妨害して鉄道会社に損害を与えた。だから、未遂に終われば、自殺を試みた者に損害賠償責任が発生するが、死んでしまったときには、遺産相続という形で遺族に賠償請求が行なわれる。」とのことだ。遺産相続は財産だけではなく負債も相続する。飛び込み自殺した者の遺族に課せられる損害賠償は負債の請求と言うわけだ。

 相続放棄すれば損害賠償責任はなくなる。だが、大多数の遺族は、ときには借金をしてまで、損害賠償金を支払うそうだ。

 これは納得がいかない。知人の弁護士も納得しているわけではないと言っていた。自殺は許されない行為だとはいえ、自殺に追い込まれた状態というのは尋常なものではない。心神喪失者や心身衰弱者は犯罪行為に及んでも罰せられないか罪が軽減される。自殺者は心神喪失状態に近いのではないか。だとしたら、刑事責任だけではなく民事上の責任も免れるはずだ。

 少なくとも、家族の突然の死で悲しみに暮れる遺族に対して、その程度のことでは経営に影響を受けない大企業が損害賠償請求をおこなうというのは理に反する。自殺の防止効果があるという意見もあるが甚だ疑問だ。法的な問題もあるだろうが直ちに改善すべきだ。

(H15/8/1記)


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