☆ 自衛隊と憲法 ☆

井出薫

 自民党は武力行使をしなければ良いと言い、小沢民主党代表は国連決議があれば良いと言う。朝日や毎日などリベラルと目される新聞各紙も歯止めがあれば海外派遣は容認されるという論調が目立つ。いつのまに自衛隊の海外派遣は合憲になったのだ。

 40年前は自衛隊の存在そのものが違憲という見解が大勢を占めていた。だが時とともに自衛隊の存在は国民に認知され、自衛隊そのものが違憲という考えは薄れた。今でも自衛隊は違憲という見解を取る学者や一般市民は存在する。筆者もその一人だ。しかし自衛隊違憲論者でも、現行憲法が自衛権まで否定しているとは主張しない。他国から侵略を受けたとき抵抗せず降伏することを国民に命じる憲法というものは理解し難いし、大多数の国民が反対するだろう。だから自衛隊を専ら自衛のための組織なのだと考えれば、自衛隊合憲論への道も開けてくる。だが専守防衛に徹するべき自衛隊が海外展開することを容認する論拠が現行憲法にあるとは言い難い。自民党の主張も、小沢民主党代表の主張も屁理屈に過ぎない。

 先進国の一員で、加工品を輸出して原材料や食糧など生活必需品を輸入に頼る日本が、海外の治安維持のために軍事的な貢献をしなくてもよいのかという議論は分かる。だが、それは自衛隊の海外派遣を合憲とするものではない。小沢氏は憲法の前文が自分の見解を支持していると言いたいようだが、前文は平和的な貢献を意味すると取るべきで小沢解釈には無理がある。そもそも前文は抽象的な理念を述べているに過ぎず拘束力はない。

 30年ほど前までは憲法改正に反対する者が多数を占め改憲論は自民党支持層でも少数派に過ぎなかった。だが改憲論者は年々増加し今や反対を上回るようになっている。日本が置かれている国際情況を鑑みれば、これも無理はないかもしれない。

 いずれにしろ、自衛隊を海外に派遣するのであれば解釈論で逃げるのではなく、憲法改正を実施して堂々と遣るべきだ。解釈論は福田小沢密談が露呈したとおり時の権力者の恣意で如何様にでも出来るから極めて危険だ。ただし現行憲法を堅持し国際的な治安秩序維持には平和的に貢献するというのが筆者の立場だ。そしてそれはけっして不可能ではないと考えている。密談で自衛隊の活動を決めるのではなく、国民的な憲法論争を通じて日本と自衛隊のあるべき姿が議論されることを強く希望する。

(H19/11/13記)


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