☆ プログラマー30歳限界説を捨てる ☆

井出薫

 最近は余り聞かれなくなったが、「プログラマーの寿命は30歳」という伝説があり、今でも信じている人がいる。だがこれは間違っている。

 50の半ば過ぎでプログラム開発に携わり若手よりも遥かによい仕事をしている人をたくさん知っている。他の仕事と同じで経験が何よりも大切で若手よりもベテランのプログラマーの方が総じて堅実でよい仕事をする。ただかつての年功序列の給与制度では、30歳くらいを分岐点として、給与の上昇がプログラマーとしてのスキル向上を上回るようになるのは事実で、これがプログラマー30歳限界説の理由になっていたと思われる。

 こうして、プログラマーは30を超えると管理者仕事に移るか、企画や営業に異動させられた。だがそれが日本のプログラム開発力の著しい低下を招いた。インド人のプログラム開発力は凄いと言われ日本企業も多数採用している。だが別に日本人がひけを取るわけではない。確かにインド人の方が開発の速さは優るようだが、システム稼動後の仕様追加への柔軟性や、故障発生時に迅速な対処ができる機能の装備など、通常は目には見えないきめ細やかな作りでは一般的に日本人の方がまだ優っている。そして、そういうきめ細やかな配慮ができるのはベテランに限られる。若手は後のことを考えずに作りっぱなしにするか、さもなければ自分の趣味で不要なルーチンをたくさん作り処理速度の低下を招いたりする。

 日本が物作りをする時代は終わった、高賃金の日本人が物作りをしているようではグローバルな市場競争で勝ち残ることは不可能だという意見がある。確かに一理あると思う。しかし、生活と産業のいたるところにコンピュータプログラムが組み込まれている現代、プログラムのバグは社会に大混乱を引き起こす。プログラムは今や水道、電気、ガス、通信、放送などと並ぶ社会のインフラで、信頼性が何よりも重要になっている。プログラムというインフラを守るためには、プログラマー30歳限界説という伝説を捨て、ベテランの優秀なプログラマーを確保育成することが欠かせない。

(H19/10/23記)


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