井出薫
朝から晩までよくもまあ飽きもせず自民党総裁選のニュースを流すものだ。参院選挙の報道を凌ぐ盛り上がりではないか。 だが自民党総裁は国民が選挙で決めるわけではなく、自民党所属の国会議員と自民党党員だけで選ぶ。しかも今回は時間がないとかで、一般党員に関しては、一部地域で予備選が実施されるものの各都道府県の代表が投票するだけだ。 確かに自民党総裁が順当に行けば総理に選出される。だが自民党に反乱が起こり他党の候補が総理に選出されることだってありえないことではない。それはないとしても、参院で民主党が多数を占める現状では、総理の裁量で決められることは極めて限られている。衆院で与党が3分の2を占めるからと言って、参院で否決された案件を数の力に頼って安易に衆院で再可決することは許されない。直近の国政選挙で与党が敗れ、参院で第一党の地位を失ったという事実は重い。総理は、国民の直接選挙で選出され、国民の直接的な支持を有するがゆえに強大な権限を与えられている大統領とは違うのだ。 しかも内外の状況を顧みれば自民党政権が採用できる政策の選択肢は限られる。二人の候補者の政策に違いが少ないと報道は嘆いているが、そんなことは端から分かりきったことだ。 要するに、今回の自民党総裁選は報道機関が大挙して繰り出し総力をあげて報道するほどの価値はない。寧ろ内外に問題山積の現状で悠長に総裁選ゲームをしている自民党を厳しく批判するのが報道の役目ではないのか。 昔から、こうやって報道機関は自民党のニュースを流し続けることで、日本の政権政党=自民党という固定観念を国民に植え付け、自民党政権を支援してきた。これでは報道の役割を放棄しているに等しい。そんなに自民党の総裁選を大々的に報道したいのならば、大統領制導入のキャンペーンを展開するべきだ。いい加減、報道の在り方を考え直してもらいたい。 |