☆ 地上デジタル ☆

井出薫

 地上アナログ放送停止(2011年7月)まで4年を切った。地上デジタル用のプラズマテレビや液晶テレビは数年前から電器店などで大量に陳列されるようになっていたが、狭い家に暮らす者にはサイズが大きく価格も高いのが難点だった。しかし、近頃は20インチ以下の液晶テレビが大量に出回るようになり、価格も10万円を切り購入しやすくなった。お盆休みがあけて、各社ともパソコンの秋冬モデルを続々と発表しているが、TVチューナー搭載型PCの多くがデジタル放送専用でアナログはサポートしていない。いよいよ地上デジタル放送の時代が迫ってきたという感を強くする。

 デジタル放送には、映像が奇麗、インターネットとの複合サービスが利用できる、オンデマンドでの受信も可能となるなど視聴者側の利便性の他、すべての送信所で同一周波数が使用できる、通信ネットワークの利用が容易、知的所有権保護が確実にできるなどサービス提供側にもメリットが大きい。当初地上デジタル導入には批判も多かったが、技術進歩とそれに伴うニーズの多様化を考えるとデジタル化推進は正しい選択だったと言える。

 尤も、課題がすべて解消されたわけではない。地上デジタルの電波が届かない小笠原など離島向けの放送をどうするか未だに決まっておらず、2011年7月に間に合うかどうか予断を許さない。またデジタルはメリットだけではなくデメリットもある。通常はさほど気にならないとは言え、デジタル処理で遅延が生じる。サッカーの試合を競技場で観戦しながら同時にテレビ中継をみれば遅延があることがすぐに分かるが、デジタル化することで遅延はより大きくなる。地上デジタル放送をIPマルチキャストで各家屋まで流すことも検討されているが、インターネットでは遅延が益々大きくなる。またアナログ放送のようにゴーストに悩まされることはなくなるが信号が弱くなるとブロックノイズが現れたりフリーズしたりすることがあり、映像が完全に途切れることもある。技術的課題も依然として残っている。

 だが、課題は残るとは言え、デジタルのメリットは大きい。視聴者は、インターネットとの複合サービスを利用して積極的に放送に関与することが可能となる。逆に言えば、これまでのように受動的に放送を受け取るだけではデジタル化した意義は薄い。デジタルの機能を活かして視聴者が主体的に自分の考えを送り手ならびに他の視聴者に伝えるようになったとき、本当の意味で、デジタル放送時代がやってきたと言えるのだ。受動的に眺めているだけでよいのがテレビの良さだというのも一面の真理ではあるが、テレビをコミュニケーションのツールとして活用するようになったとき、人々の生活はより良いものとなる。放送する側も視聴する側もこのことを肝に銘じておく必要があろう。

(H19/8/30記)


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