☆ 国民を馬鹿にするな ☆

井出薫

 参院選まで一週間を切って塩崎官房長官、中川自民党政調会長から「参院選は政権を選択する選挙ではない」という発言が相次いだ。選挙で敗北したとき安部退陣論が広がるのを阻止する目的であることは分かっている。だが彼らの発言は「参院などあってもなくてもどうでもよい」と言うに等しく、全く国民を馬鹿にした話だ。

 衆院で可決された法案が参院で否決されても再度衆院で3分の2以上が賛成すれば可決される。その意味で参院より衆院に重みがあるのは事実だ。だが2分の1の賛成と3分の2の賛成では難易度が全く違う。小泉前首相が自民党政権崩壊のリスクを負いながらも郵政法案を巡って解散総選挙に打って出たのもそのためだ。しかも憲法の改正には両院で3分の2以上の賛成が必要で、両院の重みは等しい。

 日本国民の誰もが参院よりも衆院が重要であることは知っている。だが選挙への思いはさほど変わらない。選挙結果は政権政党への国民の評価が直接反映する。今回自民党以外の政党や議員に投票する人は、衆院選が同時に行なわれたとしても別の政党、議員に投票する。それを政府や与党自民党の要職にある者が私利私欲のために否定する。これはけっして見逃すことはできない振る舞いだ。

 確かに、参院選で自民党が敗北しても、安部首相が直ちに退陣する必要があるとは思わない。今回の逆風の源である年金問題は安部内閣の責任とは言えない。それに参院選の敗北だけでは自民党から野党への政権交代はなく、現状では安部氏に代わる適当な人材が自民党内には見当たらないのも事実だ。後継に名が挙がる麻生外相は、アルツハイマー発言で馬脚を現した。麻生氏は親しみやすい(と見える)人柄でそこそこ人気があるが、これまでの言動を見てもトップに立てる見識と力量を持った人物ではない。筆者は、改憲論、教育改革など内外のあらゆる政策で安部首相には心から不同意だが、それでも麻生氏よりは安部首相の方が遥かに誠実で信頼ができると考えている。

 参院選で敗北を喫したら、安部首相は退陣するのではなく、直ちに自らの政治理念とそれを実現するための具体的な政策を国民の前に明らかにして、それを旗印に衆院解散・総選挙を断行するべきだ。それこそが責任ある政治家としての振る舞いだろう。その一環として私利私欲で「参院選は政権選択の選挙ではない」などと無責任な発言をする閣僚や党幹部は罷免する必要があることは言うまでもない。

(H19/7/24記)


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