☆ ソフトバンクの強さとそれが意味するもの ☆

井出薫

 0円広告が誇大広告と警告され、番号ポータビリティでの顧客獲得競争の出だしから躓いたソフトバンクモバイルだが、5月には顧客の純増数でKDDI、ドコモを抜いてトップに立ち、6月も2ヶ月連続トップになる可能性があると聞く。

 孫正義氏が率いるソフトバンクグループはこれまでも幾度となく危機に見舞われながらも、その都度しぶとく凌ぎきり、いまやグループで売上3兆円に迫る大企業となり、株式の時価総額ではKDDIに大きく水をあけている。この強さの理由は何だろう。

 NTTの幹部は言う。「KDDIはNTTと同じ遺伝子を持っているという感じがあるが、ソフトバンクは異質だ。」これがソフトバンクの強さの秘密なのではないか。

 お役所的体質、身内の結束の固さ、伝統的日本企業の典型とも言えるNTT、稲盛氏という古いタイプのカリスマの影が未だに消え去らず、しかも旧KDDというお役所的組織を抱え込み、NTTと似た体質を持つKDDI、この二社と比較したとき、ソフトバンクには伝統とは異質な新しさが際立つ。

 孫氏やソフトバンクグループの経営方針やビジネスの遣り方には批判の声も多く、筆者もソフトバンクを支持しているわけではない。長期的にみればソフトバンクの成功は一時的なものに終わる可能性もけっして低くない。だが日本社会の中でソフトバンクが異質な魂を宿し、それが躍進に繋がっていることは否定できない。

 アナログ電話や旧来型のパケット通信(仮想的な回線が設定される回線交換に近い概念のパケット通信)と比較したとき、IP網とそこで展開されるサービスは全く異質なものとなる。以前も論じたとおり、それはけっしてバラ色の未来を約束するものではないが、時代の流れがそこに向っており、もはや引き返すことはできない。そういう時代には今までにはない異質なものが不可欠なのだ。

 ソフトバンクが躍進を続けるのか、それともNTTやKDDIがそれを押し返すのか予断は許さない。だが、変化の激しい分野において時代を推し進めるのは異質なもの、哲学者のお好きな言葉を引用すれば「他者」だ。ソフトバンクという他者を育み、それが他者の強みを発揮していることは、日本社会が案外健全であることを示しているのかもしれない。これからも日本社会を映し出す鏡として通信業界に注目していくべきだろう。

(H19/6/21記)


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