井出薫
5月にはNTT東日本でフレッツの利用者約300万人が長時間に亘り通信不能になった。NTT東日本ほど目立たないが他の大手電気通信事業者でも大規模故障が発生し新聞等で報道されている。 競争の効果が現れたのか、近年、通信料金特に固定通信料金は急速に値下がりして、サービス内容も充実した。 その一方で、低価格でのサービス提供を余儀なくされ、しかも新サービスの導入を急ぐ電気通信事業者は、コスト削減と短納期での設備導入の必要に迫られており、設備の信頼性に大きな不安を抱えている。 NTT東日本のフレッツの大規模故障などその典型だ。この事故は、たった1箇所の設備の切替えに伴い発生した新しい経路情報(データ伝送にどの経路を使うかという情報)が多数のルータを同時にストップさせてしまったことに起因している。これは実に単純なミスで、ネットワーク設計に十分な時間を掛けず、稼動前のデバックも不完全だったことを如実に示している。 通信は重要な社会のインフラであり、高い信頼性が不可欠だ。消防、警察、海上保安庁などへの緊急通報は1秒を争う。電気通信が普及した現代、通信の役割は飛躍的に増大しており、故障で通信が途絶すると生活や業務に多大な支障をきたす人や企業がたくさん存在する。経路情報の遣り取りくらいで大規模故障になるようではインフラとして失格だ。 だが、NTTを筆頭に、各電気通信事業者は、メタルから光への置換、IP化、固定と携帯の融合、放送の通信への取り込み、多様なアプリケーションの導入などを競っており、信頼性は二の次になっている。おそらく10年は通信インフラの不安定は続くだろう。資金に余裕がある大企業や富裕な市民層は複数事業者からサービスの提供を受けるなどして自力で対策をとることができるが、庶民や中小企業には無理だ。通信インフラの不安定は格差拡大の中でデジタルデバイドを助長することになる。 電気通信事業者は、高度な通信サービスだけではなく、電話だけの単機能だが信頼性が極めて高く、料金が安いサービスを残すべきだ。行政も必要に応じ指導監督する義務がある。 |