☆ 安易な妥協は駄目だ ☆

井出薫

 年金問題、閣僚の自殺などで支持率が急落している安部首相は焦っているようだ。サミットで地球温暖化対策に数値目標を盛り込むかどうかで対立する米国と欧州諸国を日本のイニシアティブで妥協させ、選挙向けのPRにしようとしている。

 だが、こんな安易な政治的パフォーマンスは何の役にも立たない。地球温暖化がどれだけ世界に影響を与えるかは未知数で、危機だけが煽られている面は否めないが、海面の上昇で水没の危機が迫っている地域が少なくない現状で、数値目標の明確化、それもできるだけ高い数値目標、100%達成するには世界のすべての国、企業、市民が真剣に努力しなければならないような数値を目標に掲げることが欠かせない。経済的権益に固執するアメリカに媚を売り温暖化対策を骨抜きにするような数値目標を提案するのは愚の骨頂だ。各国が協力できる枠組みを作ることが大切だなどと尤もらしいことを述べているが、サミット参加国だけで温暖化問題は解決できない。いま必要なのは世界最大の排出国であるアメリカ、いずれ世界最大の排出国になるであろう中国に数値目標を認めさせ、そこを出発点にして世界各国の協力体制を樹立することだ。選挙向けに政治的な成果を挙げようとして姑息な手段に出れば、いずれ日本はその八方美人的な態度で世界中の笑い者になるだろう。

 社会保険庁、政治とカネの問題に対しても、抜本的な改革をなおざりにして、スローガンだけで中身のないお粗末な法案でお茶を濁そうとしている。

 安部首相は日本の政治家としては若く誠実な感じがして人物的には悪くないが、政治家としての能力は未熟と言わなくてはならない。改憲にはご熱心でそれなりの自説をお持ちのようだが、他の課題では素人に過ぎないという感が否めない。素人なら素人らしく、自分の無知を認めて、多くの人の意見に耳を傾け、慎重に事を進め、少々時間が掛かっても構わないから抜本的な改革を実行してもらいたい。さもないと若くして首相になったことに何の意味もなくなる。

(H19/6/7記)


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