☆ タミフルの制限は十分か ☆

井出薫

 厚生労働省は、3月20日、製薬会社を通じて、10代へのタミフル投与を中止するよう指示を出した。因果関係が確認されたわけではないがタミフルを投与された10代の患者に異常行動が相次いだことを受けての措置だ。しかし10代未満の患者には保護者に注意を求めるだけで継続して使用してもよいとしている。

 インフルエンザは通常タミフルなど抗インフレルエンザウィルス薬を投与しなくても1週間もすれば自然に治る。タミフルは、ウィルスを殺す薬ではなく、その複製を阻止して増殖を抑える薬なので感染してから48時間以上経過すると投与の効果はないと言われている。しかも肺炎菌など細菌による二次感染には効果がない。

 要するに、タミフルが必要だと考えられるのは、インフルエンザ脳症などが危惧される幼児や、重症化しやすく命にも関わる高齢者だけで、もともと10代以上の年齢層では使用する必要性は薄かった。だから10代での使用を中止しても別段問題は生じないだろう。

 高齢者の場合はインフルエンザが原因で命を失う例も少なくないため、若干のリスクがあってもタミフルの服用はプラス面が大きい。だが10歳未満への投与を継続することには若干疑問が残る。10歳未満の児童の場合でも、そのメリットとリスクを秤にかけたときメリットが大きいと言い切れるのだろうか。

 異常行動を起こしても暫くたてば収まるし、後遺症が残ることもないようだ。10歳未満の児童ならば力も弱く付き添いの者を振り切って外に飛び出すなどして事故を起こす危険性も少ない。だからメリットの方が大きいという判断なのだろう。

 日本では年間400万人もの患者がタミフルを服用している。これは世界全体の使用量の8割に相当し日本人の薬信仰を裏付けるものだが、これだけの服用者数に対して異常行動の発生数を考えると、確かにリスクはさほど高くないと判断してもよいかもしれない。だから労働厚生省の指示が間違いだと言うつもりはない。

 だが異常行動は明らかに脳への作用を示唆しており、その因果関係がはっきりしない現時点では、異常行動が起きても一時的、後遺症はないと断言する材料はない。児童で怖いインフルエンザ脳症を、タミフル服用が助長する可能性もゼロとは言い切れない。

 タミフルは、鳥インフルエンザウィルスが人に空気感染するように変異したときに大流行を防ぐ切り札だとされている。だからこそ、今のうちに適切な措置を取る必要がある。

 不必要な処方は耐性ウィルスの出現を促し、いざというときに薬の効果をなくす可能性がある。10代だけではなく、他の世代においてもタミフルの処方には慎重な配慮が求められる。厚生労働省や医療関係者はそのことを十分に認識して、実行してもらいたい。

(H19/3/21記)


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