井出薫
タミフル服用後に異常行動を起こしたという報道が続いている。しかし因果関係は明らかになっていない。鳥インフルエンザウィルスH5N1が猛威を振るっている現在、インフルエンザの特効薬タミフルが話題になるのは当然だろう。 事実、H5N1が人間に容易に空気感染する型に変異する可能性は否定できず、そうなればスペイン風邪以来の世界的大流行になる可能性が高く、世界中でタミフルとリレンザが大量に使用されることになる。特に経口投与で使いやすいタミフルが第一選択になるのは間違いない。だから、タミフルの副作用の調査研究は欠かせない。 しかし、脳神経系へ影響を与える薬はタミフルだけではない。統合失調、うつ病、躁うつ病、不安症、パニック症、強迫症などの精神的な疾患に処方される薬は脳神経系に作用する薬だから、当然副作用もある。不安症やパニック症に処方される抗不安薬は普通不安感を和らげる働きをするが、時には、却って不安感、焦燥感を高めることがあり、せん妄状態を引き起こすこともある。抗鬱薬も同じで、より強力な薬剤である統合失調の治療薬はさらに強い精神的な副作用がある。これは薬の使用上の注意にも必ず明記されている。 筆者も抗不安薬を使用しているが、体調不良や睡眠不足のときなど、服薬したら却って焦燥感や不安感が増したと感じることがある。これが薬の影響なのか、ときたま不安が生じて薬の効果が現れてくるまでの過渡的な現象なのかは判断できない。大した症状ではなくすぐに消えるので、気にすることもないが、薬の怖さを感じないわけにはいかない。 精神疾患に使用される薬だけではなく、薬の成分の多くは、血液中から脳血管関門を通過して脳にも侵入する。だから、タミフルのような精神疾患とは無関係の治療薬が異常行動を引き起こしても何ら不思議はない。タミフルだけではなく、抗生物質、普通の風邪薬、いや、その他すべての薬が脳神経系の副作用を生じる可能性がある。 薬を気楽に使い慣れている現代人は、薬の精神への影響をほとんど気に留めていないが、薬には常に人の行動を狂わせる可能性がある。どんな薬であろうと、飲んだあと気分が変になったりしないかどうか、よく注意観察する必要がある。同時に、家族が病気で薬を服用するときには、傍にいて、さりげなく様子を見守り、異常行動を起こさないか注意してあげることが望まれる。 |