☆ 北朝鮮政策の転換を ☆

井出薫

 対話路線を志向した6カ国協議の合意にも拘わらず、日本政府も拉致被害者家族会も相変わらず強硬姿勢を崩していない。拉致問題が解決しない限り経済支援も国交正常化もないの一点張りだ。だが、これでは話しにならない。

 金正日政権は信用できない、非民主的な政権だと言う。確かに、信頼できるパートナーとは言い難いし、民主的でないことは否定しようもない。欧米のジャーナリストからは世界で一番報道の自由がない国だと非難されている。だが現在の金政権が北朝鮮を実効的に支配しているのは紛れもない事実だ。他国を侵略しない限り、外部からそれを潰すことはできないし、潰すべきでもない。金政権自身が政策を抜本転換するか、北朝鮮国民の手で新しい政権を作るか、そのいずれかを待つしかない。それまでは現在の金政権を相手に交渉するしか道はないのだ。

 経済制裁が有効だと一部の保守派や拉致被害者家族会は主張する。しかし、日本がいくら経済制裁を続けても、韓国、中国などの友好国が支援を続ける以上、大した圧力にはならない。しかも頼みの綱のブッシュ政権も軟化しており、このままでは日本だけが孤立して、拉致問題の解決など砂上の楼閣となる。

 そもそも、小泉前首相が訪朝して金正日が拉致の事実を認めたときが全面的な問題解決の絶好の機会だった。ところが、反北朝鮮派や保守系マスコミが北朝鮮非難の大合唱を始め、被害者家族会もそれに乗せられ強硬姿勢を打ち出したために交渉は頓挫した。外交の基本はギブアンドテイクではないか。北朝鮮が不名誉な拉致を認めた裏には、日本からの見返りがあるという期待があったはずだ。そして事前交渉で日本側もそれを示唆したのではないのか。ところが見返りは与えられず、日本国内の反北朝鮮感情ばかりが高まってしまった。

 核兵器開発を本当に放棄したのか疑問は残るが、拉致問題の解決と朝鮮半島非核化の促進のためにも、拉致問題の協議と同時に経済支援や国交正常化交渉を進めるべきだ。安部首相は対北朝鮮強硬姿勢で人気を博した。だが今は日本の首相という地位にあることを忘れないでもらいたい。「君子は豹変する」と言う。自分の過去の主張や行動に必要以上に拘るべきではない。拉致被害者家族会も強硬姿勢だけでは問題解決の糸口が掴めない現実を直視して発想の転換を図るべきときだ。

(H19/2/20記)


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